Emma

哀れなるものたちのEmmaのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

『見た目は大人、頭脳は子ども』という感じで、どこかの探偵が脳裏を過ぎった。
橋から飛び降り自殺をした主人公ベラが、天才外科医という名のマッドサイエンティストによって、自身のお腹の中にいた子どもの脳みそを自分の脳に入れて蘇生させられて生きていくお話。マッドサイエンティストは人体実験として、成人女性の脳に赤ちゃんの脳を入れるとどうなるかを試すためにベラを蘇生させたようだった。

初めはベラは大人なのに脳が赤ちゃんのため、歩き方がおぼつかなかったり、話す言葉がままならない様子が観ていて落ち着かなかった。見た目と中身のちぐはぐな様子がどこかむず痒さを感じさせた。そんな歪な雰囲気のベラに惹かれた婚約者の男性も正直不思議だった。

ベラは驚異的なスピードで脳も成長していくため、比較的早い段階で言葉を覚えていき、行動も赤ちゃんから園児、中学生、大学生?と変わっていく様子は興味深かった。ただ知識はあってもまともな教育を受けているわけではないため、倫理観は一緒に育たない描写が印象的だった。特に性に関しては奔放な様子がたくさん描かれていた。

途中でベラがマッドサイエンティストのお家から飛び出して弁護士とヨーロッパ横断の度に出たとき、画がモノクロからカラーに変わる描写が素敵だった。ヨーロッパ横断の旅では、弁護士がベラにカラフルなお洋服を着せていたのも印象的だった。ベラはスタイルがとてもよいのでお洋服が本当によく似合う。ベラのファッションを観ているだけでも個人的には満足だった!

ヨーロッパ横断の旅で色んな人とお会いしていく中で、ベラの内面も成長していき自分の意見も持つようになる姿はよかった。最初はよくないことをしたら弁護士から注意を受け、「そういうものだから」「いいから言うことを聞け」と窘められていた。しかし、途中でご婦人に出会い、自分の目で見て経験して、頭で考えることを覚えてからは、自分のことだけでなく相手に寄り添うことも少し覚えて人間らしくなった気がする。
その結果、旅の最初はベラの考えの幼稚さが目立ったが、次第に弁護士の方が幼稚に見えるようになっていく様子はどこかスカッとした気持ちになった。

旅の途中で弁護士から離れて、自分でお金を稼ぐために風俗で働き、大学?に通い、自立していく様子はどこか逞しかった。服装もモノトーンで髪型も後れ毛のないピシッとした髪型になり、より一層別人のように見えた。この頃になると弁護士は目もくれず、自立して自分の力で生きていこうとしていたのはかっこよかった。

最終的にはベラも医者になっていたことには驚いた。しかし、自身を赤ちゃんの脳みそで蘇生させた天才外科医のように、医者になったベラも人体改造や動物の改造をするマッドサイエンティストになっていた。また、そのような行いをなんとも思っていない様子がまさに「哀れなるもの」で、綺麗にタイトルを回収している感じがして面白かった。

強いて言えば、性以外の面での変化をもう少し観てみたかった。…とは言えど、見た目は大人でも、旅の途中は内面が中学生くらいだったのであれば、性が全面に出てしまうのも分からなくは無いなと思ったりもした。多感な時期、かつ、性的なことが好きなベラにとって、そういう行為を誘ってくる人が身近にいたら、その欲求に従ってしまうのかもしれない。特にベラは倫理観に関しては一般的な中学生よりも育っていなかったと思うから尚更だ。

そう考えるとやはり子どもの頃にまともな教育を受けているか、優しさや愛に触れているかはその人のその後の人生に大きく影響を与えるものなんだなとも感じる。少なくともベラの幼少期は死体を好きに遊ばせたり、改造実験をされている動物がいるようなマッドサイエンティストの元で育ったから、やはりどこか歪なところがあるのは仕方ないのかもしれない。

独特な世界観だからこそ、観終わった後に色々と考えさせられるお話だった。また、展開の予想がつかなかったため、内容に少し気持ち悪さがあるが画面からは目を離せない、不思議な作品だった。
Emma

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