スガシュウヘイ

哀れなるものたちのスガシュウヘイのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
きた!奇跡体験!

今までヨルゴス・ランティモスは、天才というより、何か“超越した価値観”というような感覚で楽しませてくれていたが、反面、何を暗示してるかわからない、という凡人の悩みはあった。

一方、前作『女王陛下のお気に入り』はかなりわかりやすいストーリーになっていたが、それはそれで“超越性”というものは、失われていたような気がする。


このテーゼとアンチテーゼを見事に合わせたのが本作だと思う。ヘーゲル哲学のいう弁証法とはつまりこういうことか?


彼の“超越した視点”が、ついに人間そのものをしっかりと捉えた。

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外科医ゴッドによって、胎児の脳を移植された女性ベラが、言葉を獲得し、性に目覚め、社会を知り、思想を知り、死と生を知り、自分の世界を作るまで。


“貧困”を知ったときの彼女の衝撃たるや。
ランティモス美学の真骨頂を体験した気がする。

一方で“売春”に対しては、ほぼ無抵抗、というかむしろ好奇心から様々なプレイを行う。ランティモス監督の“性”の表現はいつも生々しい。


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神は人間に知能を与えた。
しかしその目的は与えなかった。
そして、人間は生きる意味を探して永遠に彷徨う生き物となった。

人間とは、哀れなるもの。

しかしランティモスにかかれば、そんな自虐をも耽美的に変えてしまう。


純粋無垢な存在ベラの視点を通して、人間の哀れで滑稽な一面を描いた怪作。


公開:2023年
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
出演:エマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーク・ラファロ
受賞:ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞ほか。
個人メモ:⭐︎4.3→準殿堂