ゆず

哀れなるものたちのゆずのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
言いたいことを言い、やりたいことをやる、わきまえない女性ベラ。赤ん坊の無垢な脳味噌だからこそ、抑圧だらけの世界で彼女は規範から逸脱し自由奔放に生きることができるのかもしれない。ベラを取り巻く世界は相も変わらず偏見と構造的差別にまみれている。

ベラを世界へと連れ出す男ダンカンも性に奔放な人間だ。しかし彼の奔放は旧時代の構造の中でのことだと徐々に分かる。(逆に言えば、男性が奔放に振る舞うことが許されるのが男社会だ)
ダンカンはベラを解放する役のように見えて実は束縛しようとする役である。読書するベラから本を取り上げるシーンなどは象徴的だ。女性から教育を奪うことは構造的差別につながる。

しかし結局はベラは束縛を跳ね除け、自立した女性として生き始める。ダンカンのアイデンティティはついに崩壊する。ダンカンの生きる男社会では、女性を所有することが男らしさだからだ。ダンカンの姿はどんどん滑稽になっていく。ベラが自らをエンパワメントするのに反比例してダンカンは自分を見失っていく。
男社会が崩壊した時、男性は生きる術を持たないのかもしれない。これまで男社会という温室で育てられてきたからだ。ベラと対等にやりあえる男がどこにいるだろう。男社会は男性をも不幸にするのだ。

哀れなるものたち。この社会で抑圧される彼女たち。その上で胡座をかき、愚かになっていく彼ら。
だけど彼女たちには未来があり、彼らにはない。
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