がぶりえる

哀れなるものたちのがぶりえるのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9
アブナイ子にも旅をさせよ。

キモいのに美しい、奇天烈なランティモスワールド。まるで童話の中の様な美しい世界の中で暴れ回るグロテスクで愚かな、でも愛おしいキャラクター達。キモいけど見惚れるこの世界。劇中ベラがローマの街を見渡してゲロ吐くシーンがあるけど、見てるこっちの気持ちもあんな感じ。ランティモスに頭を鷲掴みにされて「俺の世界観について来い!」って言われながらブンブン振り回されるような感覚。セットから衣装からアイキャッチまで、何から何までこだわりまくってて、映像の快楽に満ち溢れてる。画面の端が歪んだ様に映る、広角カメラで撮った映像のとことか凄く面白い撮り方。

何より設定とキャラクターのアイディアが素晴らしい。飛び降り自殺をした妊婦の死体から脳を摘出し、胎児の脳と取り替えて蘇らせる...どうやったらこんなこと思いつくんやろか。倫理観もクソもない完璧にイカれた悪魔の手術を「幸せな話」と呼び、飯を食うと謎のシャボン玉を吐き出すフランケン博士のキャラクターも強烈。人間の愚かさを凝縮して詰め込みまくった様な変態弁護士も、ベラに想いを寄せる博士の助手も、みーんなアタオカで、でもどっか愛せるし脳裏にこびり付くインパクトがある。「ヤバいヤツがやりたい放題ヤバい事をするのを観る」っていう思春期の時の映画の楽しみ方みたいなのを久しぶりに思い出させてくれた。コンプラとかポリコレとか色々うるさい時代だけど「映画だから何やってもいいでしょ?の精神」だけはいつまでも消えないでほしい。

この映画を観て思ったのは、教養と人生経験がいかに大切かということ。身投げした前世のベラが人生もう一周して元旦那の下に帰るラストの畳み掛けが面白い。映画冒頭のベラは、性欲も破壊欲も発散したいだけ発散するめちゃくちゃな存在だったが、本を読んだり、誰かと会話したり、人生経験を積みながら教養を身に着けていくことで徐々に思慮分別のある聡明な強い女性に成り変わってゆく。性に対する考え方も、「熱烈ジャンプしたい時にしたいだけする」という考え方から、娼婦として色々な男との経験を重ねることで「誰かに、自分の持っている特別な何かを必要とされる感覚」を学び、それが「愛」の前身となる。そしてラスト、性的と言うよりも人として必要とし合う関係性がマックスとの間に築かれめでたく結ばれる。
我々がほぼ無意識のうちに感じ得てきた成長と愛の物語が、1人の歪で未熟な女性の奇怪な人生に集約されていることに不思議な感動を覚えた。

ちなみに初ランティモス作品。絶対変な人だろうなぁ〜ランティモス。