秀ポン

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊の秀ポンのレビュー・感想・評価

3.7
1作目を劇場で友人と見て以降、なんやかんやで3作全部見ている。
めっちゃハマったとかいうわけではないのでわざわざ映画館で見たりはしないけど、配信に来てたらなんか見ちゃう。

優雅で華やかな上流階級の世界を見せて来たこれまでとは打って変わって、今作は不穏で暗い雰囲気が支配している。
2作目の時点では「この調子で優雅な上流階級探偵ものをやり続けてくれ」とか思ってたけど、これはこれで良い。というか、これまでで1番面白かった。

この雰囲気の変化には、2作目と3作目の間で起きた第二次世界大戦が影響しているんだろう。
直接描かないまでも、序盤の街でポワロの背後に小さく映る兵士だったりがこの映画に戦争の影を落としている。
そして戦争を大人の事情と捉えたときに、それによって誰が犠牲になっているのか、というのが本作の大きなテーマになっている。(レオポルドや助手達、娘などが示している)
まあそれは置いておいて、これまでのシリーズが持っていた品の良さを保ちながらも不穏な雰囲気になっている塩梅がかなり好みだった。

そして不穏な雰囲気は、引退して探偵として死んだポワロの状態と呼応している。
探偵であり(引退してるけど)誰よりも正気であることが求められるポワロが狂気側に引っ張られていて、それが不穏な雰囲気で演出される。自分はもう本当にだめなのか?この部分がめっちゃ良い。かわいい。
そして真相を解明することで自分が自分に抱いていた疑念が晴らされ、探偵として復活する。

毎度のことながらミステリーにはあんまり興味がないので、トリックの描き方やその明かし方については特に良いとも悪いとも思わなかった。
ミステリー映画をリアルタイムで推理しながら観れる人はすごいと思う。(1作目を一緒に見に行った友人はこのタイプだ)
俺は「犯人とかはなくて本当に亡霊の仕業だったとしても別にいいや」と思いながら観ていた。

唯一ミステリーの建て付けに関して思ったのは、聞き込みパートを序盤で一気に済ませるのではなく、時間をかけてそここそを話の中心にしているなということ。
これはこのシリーズの特徴かもしれない。トリックではなく人に焦点が当たっているから自分のようなミステリー門外漢でも楽しめるのかも。
犯人以外の容疑者達が、単なるブラフではなく主題に関わる事情を持った人間として存在している。

シリーズを見る度にケネスブラナーのポワロが好きになっていっている。
魂が震える傑作とまではいかないけれども結構面白いくらいのこの感じで、これからもシリーズがずっと続いていったら良いなと思う。

──その他、細かな感想。

・昼間のハロウィンの楽しげな音楽が、夜になるとそのまま不穏に響き出すのがすごい良かった。祭りの華やかさの裏に確かにある不気味さが上手いこと表現されてる。
この辺りの、館に人が集まる辺りの不穏さが好き。仮面付けた船頭とかかっこいい。

・館に着いた霊媒師が霊が多すぎるって言った辺りで「大丈夫か?空気階段の霊媒師のネタみたいなことにならない?」って思った。

・インチキ霊媒師のトリックを暴くっていう序盤では大好きなドラマのTRICKを連想した。その話は早々に終わってしまうんだけど、しかし最後、夜が明けてから明かされるなんとも言えない真相は若干TRICKっぽいと言えるかも。

・字幕はかなり微妙だった。言い回しが変とかじゃなくて、文意が汲み取りにくい。
「本物の霊媒師だと?」
「そうでないなら誰が傷つく?」とか。
クソだと言いたいけど、ポワロを見た後だとそういう汚い言葉を使う気にはならないので、かなり微妙程度にとどめておく。

・俯瞰で撮るカメラの下をポワロが手前側に通り過ぎ、それをカメラが上下を反転させつつ追うカット。たまに見るカメラワークだけど、ポワロの心情を不安定な画面で表現していて、これまで見たこのカメラワークの中で1番綺麗にハマってた。

・地下の骸骨から蜂が飛んでくるところだけなんかノリが浮いてた。

・ミステリーには興味がないって言ったけど、1作目のオチにはビックリした覚えがある。

・公開年を見ると、1〜2は5年かかってるけど2〜3は1年なんだ。このペースでガンガン撮っていってほしい。
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