みゆ

スイート・イースト 不思議の国のリリアンのみゆのレビュー・感想・評価

2.5
アメリカという迷宮を彷徨う少女の寓話。ショーン・プライス・ウィリアムズの監督デビュー作『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』は、一見すると典型的なロードムービーの装いをまといながらも、どこか歪で奇妙な魅力を持った作品。16歳の少女リリアンがアメリカ東部を彷徨いながら、次々と異なる世界観を持つ人々と出会う——まるでルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を現代のアメリカに置き換えたような物語。
リリアンを演じるのは『Pearl パール』でも注目されたタリア・ライダー。彼女の演技は、無垢でありながらもしたたかさを持ち合わせたキャラクターに命を吹き込んでいる。リリアンは流されるままに旅を続けるが、その表情はどこか醒めていて、まるで世界を傍観しているかのようだ。彼女は自ら選択しているのか、それともただ運命に操られているのか——その曖昧さが、映画全体の不安定な空気感を生み出している。リリアンの旅は、アメリカという国の多層的な断片を映し出す。過激な思想を持つ学者、陰謀論に染まった武装集団、アート志向の若者たち——彼女が出会う人々はどこかカリカチュア的でありながら、妙なリアリティも持ち合わせている。まるで現代のアメリカを象徴するモザイクのように、それぞれが独自のルールで動いている。その中でリリアンは特定の価値観に染まることなく、ただその場を生き抜いていく。彼女は誰の思想にも完全には同調しない。だからこそ、この映画は「成長物語」ではなく、「漂流の物語」としての側面が強い。本作の魅力の一つは、ショーン・プライス・ウィリアムズのシネマトグラフィーにある。35mmフィルムで撮影された映像は、ノスタルジックでありながらも、どこか非現実的な雰囲気を醸し出している。アメリカ東部の風景が、リリアンの孤独や浮遊感と共鳴するかのように映し出される。音楽もまた、旅の不確かさを際立たせる要素として機能し、観客をリリアンと共にどこへとも知れぬ道へと誘う。本作には、はっきりとした結末がない。リリアンはどこかへ辿り着くわけでもなく、確固たる成長を遂げるわけでもない。しかし、それこそがこの映画の本質なのだろう。リリアンの旅は、ただ「続いていく」。観る者は彼女と共に、行き先の見えないアメリカを彷徨うことになるのだ。『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』は、現代アメリカを寓話的に描いた異色のロードムービーであり、見る者を不思議な余韻の中に取り残す。これは成長譚ではなく、ただ存在し、流され、漂うことの映画なのかもしれないなと思った。
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