この世界の見え方も、誰かへの感情も、何をすきかきらいかも、捉え方の違う誰かとともに生きていくこと。言葉と時間を尽くしてもきっとわからないかもしれないそれらでも、その人にとってどう大切で切実なのかを想像することはできる。これは喪失と尊厳についての物語なのだと思った。
わたしが中学生のころ、人はそれぞれにひとつ地球を持っていて、その地球では誰もがなにも踏みにじられないで自由でいられるのだったらいいと思っていた。その地球と似たものが尊厳なのだと今は思う。ほんとうはどんな人でも、生きていることを踏みつけられてはいけないし、踏みつけられることに慣れてはいけない。それはどんな嫌いな人でも、悪人でも、例外などない。
ひとりとひとり、として生きていけることの晴れやかさよ。隣り合う人として、手招きするでもなく、ただすぐ近くでその人として生きている姿を互いが灯台のようにして。