Kuuta

ミャンマー・ダイアリーズのKuutaのレビュー・感想・評価

ミャンマー・ダイアリーズ(2022年製作の映画)
3.7
決して良い表現ではないが、「後味の悪い」作品だった。

ミャンマー発のドキュメンタリー。2021年のクーデター以降の社会の混乱を、市民撮影の実際の映像と、現地の映像作家による再現ドラマで描く。生々しい暴力が実際の映像で、人びとの精神的不安や、社会の抑圧が高まっていく状況をドラマで表現している。

2022年の私のベスト映画は、大量の匿名映像を組み合わせ、民主化運動を巡って警察と対峙する学生を描いた香港のドキュメンタリー「理大囲城」だった。現実の断片を巧みに再構成することで、一つの物語を描く傑作だった。

今作は「理大囲城」とはだいぶ趣が異なる。リアルとフィクションの境界が溶け出し、見えにくくなっている。市民が撮ったスマホ映像は、画角の横の制限が、見てはいけない現実を覗き見する感覚を与えている。対照的にワイドに広がるドラマが、映画的な演出と共にそこに生きる人の内面を掘り下げていく。ずーんと重い気持ちになったところで、また画角が狭まる現実が帰ってくる。

現実とフィクションがそれぞれの役割を果たしながら、八方塞がりな絶望を重ねていく。今作冒頭の、ちょっと口あんぐりな映像が象徴的だが、現実のタガが外れた、悪夢を彷徨う様なミャンマーの現状が映像化されている。

後味が悪いと書いたのは、特に終盤の展開だ。反体制派の若者が都会を捨て、ジャングルで銃の打ち方を学び始める。大変、不味い方向に行っている。というのも、ミャンマーで軍政が幅を効かせる要因は、ロヒンギャを始めとする国内の少数民族を弾圧し、「国家の統一」を維持できる実力組織だからであり、反体制派がゲリラと化し、少数民族に近い立場を取るようになると、いよいよ軍が全面的な武力行使に踏み切る可能性が出てくるからだ。今よりもさらに、血が流れる懸念が高まっている。

今作は先の見えないジャングルを行軍する若者の姿を捉えて終わる。本編終了後、今作の売り上げがミャンマーの人道支援に使われることがテロップで表示され、私もこの暗中模索の一部になったのだと、私の現実と、ミャンマーの現実を区別することはできないのだと、半ば強制的に植え付けられた。覚悟はしていたが、予想以上に重いものを持って帰ることになった作品だった。
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