どうしたって「TIME」と比較せずにはいられない映画。
時間の切り売りと富裕層の不老、貧困格差と同じテーマなので、製作陣だって認識はしているだろう。
しかしあちらが良作なのに対して、こちらは佳作どまりといった評価。
貧困を脱出するための方法として寿命を売ることができるというのは面白い設定だが、その設定が生かし切れていない。
適合するドナーがいなければ処置を受けられないというのもTIMEには無かった設定だが、もう少し主人公夫婦のキャラクターを深堀りして欲しかったところ。
自らも数年を寄付した経験があり、最優秀エージェントとして働く夫だが、十数年も組織で働いておきながら一体どんな倫理観で仕事をしてきたのか、ピュアすぎると言わざるを得ない。トップセールスとして表彰される割に、自分が行っていることが「命の売り買い」であるという自覚がなく真に両者をハッピーにする仕事だと信じているし、難民キャンプから人が攫われて違法に寿命交換手術が行われている実態も聞いたことが無かったというのはさすがにリアリティに欠ける。少なくともモグリの医者が違法なサービスを競合として提供しているという事実くらいは会社として把握していることだろう。
中盤、密航している船舶が特定されて捕まる危機に陥るがこれもガバガバ検問のおかげで突破。主人公夫婦が悪行に手を染めていく心境の変化を描きたいがために用意された筋書きだろうが、普通に考えたら乗っている船が特定できているのに完全封鎖せずに取り逃すなんて手ぬるすぎる。
「TIME」は主役俳優2人の魅力もあったが、それを負う職業倫理の高い刑事、非業の死を遂げる母といった脇を固める登場人物がまた魅力的だったことと、細部に「TIME」の世界ではどんな暮らしを人々が送っているのか?魂宿る行動心理学的な描写が随所に合った。
コーヒー1杯を買うのにも寿命を削られる、バスの運賃が上がれば人が死ぬ、富裕層は時間に余裕があるから走ることをしないが、貧乏人はいつも走って移動する等。
現実とかけ離れた設定の世界で暮らす人々を描くからこそ、彼らがその世界で実際に生きているというリアリティを持たせてほしい。
本作にはそれが足りない。