明石です

突入せよ!「あさま山荘」事件の明石ですのレビュー・感想・評価

4.5
あさま山荘事件に突入した警官隊の舞台裏。

自分たちの行動で日本を根底から変えられると本気で信じ、武器を手に山荘へ立て籠もったたいわゆる「連合赤軍」と、世紀の特ダネに飛びつこうと目を血走らせる報道陣に対し、どことなくユルイ、官僚システムそのものとしか本気で戦ってないように思える警察側のギャップが面白い。たとえば、山荘への突入を2月28日に決行したのが、29日(閏年)になると殉職者の命日が4年に1回しか来ないからとかそういうところ笑。

とはいえ突撃が始まってからの緊迫感は凄くて、場面の息苦しさがスクリーン越しにバシバシ伝わってくる。同事件を「連合赤軍」の側から描いた若松孝二監督の実録映画では、警官隊が突撃してきてからは、わりとあっさりコトが運んだかのように見せられていましたが、本作は突入開始後をむしろメインとして描かれてる。当時を生きた人にとってはあるいは当然なのかもですが、これだけのドラマ(と死)があったの知らなかったかあと感服。全国民の90%がテレビの前に釘付けになっていたというのも伊達じゃないですね。その時の熱気みたいなのが伝わってきて大満足です。

銃と爆弾を大量に備え籠城するテロリストに対し(柔軟性の欠けるシステムのおかげで)銃一丁さえ持たせてもらえず、ジェラルミンの盾だけを頼りに突入していった警察の方々の勇気が素晴らしい。作中の台詞、「たった1人の人質を救出するために、こんなにも多くの死傷者(30人近く)が出るなんて」にはとても考えさせられる。人の命ってなんなんでしょうね。民間人が死ぬと大ゴト(不名誉)だけど、警察が死ぬのは殉職(名誉)。これも作中の言葉ですが、本当「栄誉なしにはこんな仕事やっていけない」んだろうなと思う。

あさま山荘に立てこもった側に対しても、この映画のおかげで少し複眼的に見られるようになった気がする。この赤軍派の「革命」はほとんど妄想の域を出ない、良く言っておママごとだったけど、警察がこれだけ総力を上げて対応しなければならなかったのは、それはそれで凄いことだと思う。マイリー·サイラスのMVでしか見れないようなどデカい鉄球で山荘を破壊させるまで10日間も立てこもり続けた気迫にはある程度のリスペクトは払わなきゃいけないなと。ただこれだけの意思があっただけに、彼らの根底にある思想が貧相だったのは余計にザンネンですね。彼らが理想としたチェ·ゲバラやカストロは、暴力に頼らなくても民衆を惹きつけられるだけの思想があった。自分たちのいわゆる「革命」に酔う前に、「革命」を絵空事でなくすための方法論をきちんと学ぶべきでしたね。なんらの要求もなく、ただ山荘に立て籠もって殉死すれば革命のためになると思い込んでいたあたりが自己陶酔の極致という感じで、あらためて、連合赤軍の「革命」は、一見すると複雑なようで、その実、はてしなく自己正当化をつみ重ねる過程そのものだったのだなと。

役所浩二さんの気の抜けた演技が、勃発当初はあまり大ゴトと捉えられていなかった(その結果としてあれだけの死傷者が出た)という同事件の雰囲気を捉えつつ、ともすれば緩くなりがちな作風をビシッと引き締めてる。後半のキレっぷりも格好良いし笑。これほどの有名俳優が勢揃いしてるのに、この人だけ頭ひとつ抜けてるの、本当、唯一無二の俳優さんだなあと思う。
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