明石です

街のあかりの明石ですのレビュー・感想・評価

街のあかり(2006年製作の映画)
4.6
夜間警備員の男がヤクザの情婦の女性に嵌められ、宝石強盗の手助けをさせられ、破滅していく。アキカウリスマキの"敗者"三部作の三作目。

主人公は会社をクビになった、アル中でヤニカスのどうしようもない男で、破滅のさなかにも自分の生き方を貫く姿勢を崩さず、それゆえ一人の女性"には"恵まれる。でもそれで何がどうなるというわけでもなく、社会の底辺でもがき続ける。はたからみれば飯の種にもならないようなプライドを後生大事に守ってるがために転落していく男の物語。多少「鬱」に寄り過ぎている(一緒に観に行った子が、観終えた後なんともいえない空気を出してて、しまったなと思いました)きらいはあるにせよ、正直に言ってとても好き。

警備員の仕事を終え、ジャケットにジーンズの格好でバーに行き、カウンターに居合わせた女性を口説いて失敗。そもそもが場違いな格好から、皺のないスーツに身をまとった「成功者」たちの無言の視線で店から追い出される。彼が社会的な「敗者」であることを分からせる冒頭の一連の演出。開巻5分で、ああこの映画絶対好きだわ、と直感し、ラストまでずっと好きでした。

エンドロールで、『マノン·レスコー』の文字を見た時、ようやく合点がいきました。この映画、ファムファタルものだったのですね。アキ監督特有の、セリフを(時として必要なセリフさえ)カットして、主人公の顔のクロースアップを中心に彼ら彼女らの心情を読み取らせる手法から、その手法を読み誤った鑑賞者(つまり私のこと)には物語の細部が理解できないというあるある(多分)に陥ってしまい、主人公の行動原理が把握しきれていなかったところ、ファムファタルものだと知りあとから合点がいった。他の女性に手を差し伸べられてもなぜか無視してしまうのも、そりゃそうだよなと。

いやそこは助けてもらえよ!というのは余計なチャチャで、そもそも彼は、自分がこれと信じたもの以外には何も頼らない姿勢ゆえに女性を惹きつけるのであって、安易に助けを求めてしまったら本末転倒なのですね。強盗の被害者なのに、「協力者」として刑務所に入れられてしまう不条理も、惚れた女性を庇うためという一本筋の通った理屈が彼の中にあるので、そもそも不条理ですらない。ファムファタルとハードボイルド映画の融合。最高か。

主人公のーは最新作『枯れ葉』で"カラオケ王"を演じていたイケおじで、この映画の頃は正統派のイケメン。背格好も警備員の制服もポマードで綺麗に撫で付けた金色の髪の毛も、バイオハザード4(笑)のレオン·S·ケネディに激似で驚いた。みんなあえては書かなくとも、思ってたんじゃないかな。一応、年代的にほぼ同時期の作品だし、、

早い話惚れた女性がヤクザの情夫だったという物語で、一鑑賞者としては、いや気づけよ、、とは思う。でも男というのは概して自分が見たいものしか見ない生き物で、その彼女が実際にヤクザの隣にいるのを目にするまでは、頭の中でどうとでも都合よく解釈し、考えたくない事実ははなから無かったことにしてしまう。そして、その実場面が目に飛び込んできたことで、すべてが破綻してしまう。みっともないけど、男ってこれでいいのよ、、と思う。というか、これがいいのよ。自分の生きたいように生き、したいことをして、それで結果一人の女性は守れているわけだし。ヤクザの情婦をね。
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