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リアリティのfujisanのレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
3.5
関西でも東京から一週間遅れで公開が始まったので、観てきました。

本作は、アメリカのNSA(国家安全保障局)の情報を匿名サイトにリークした罪でFBIに逮捕されたリアリティ・ウィナーの、FBIによる家宅捜索から逮捕までの82分間を描いた作品。

映画にはまれに撮り方そのものが注目される作品があり、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のような全編ワンカットや、最近では無実の黒人が白人警官に殺害されるまでの90分をリアルタイムに描いた「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」などがありますが、

本作は「キリング~」と同じく、リアルタイム進行形の映画。しかも、当日の録音記録の音声そのままに台本を起こし、俳優が演じているというところに最大の特徴があります。

監督はティナ・サッター。自身のブロードウェイ向けの戯曲を映画化した、長編映画デビュー作だそうです。

逮捕されるリアリティを演じるのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」にもチョイ役で出ていたシドニー・スウィーニー。個人的にはワンハリよりも、Amazonオリジナル映画「観察者」でめっちゃエロい役を演じていた印象のほうが強いです😅

参考:
観察者のfujisanの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画
https://filmarks.com/movies/98844/reviews/153644353



さて、本作は家宅捜索から逮捕までの80分だけを描いたものなので、注目点はFBI捜査官とリアリティの息詰まる実録のやり取りということになります。

捜査は任意だから、と言いつつリアリティがそれに応じてしまったのは、おそらく彼女自身が何らか後ろめたいところがあったからかなとも思いますが、最初は外で話を聞くだけ、が、家の中で話そうか、になり、そのまま逮捕になるっていうリアルな怖さがありました。

意外だったのは捜査官たちの物腰の柔らかさで、
『銃は持ってる?』 『…持ってます…』 『そりゃ女性一人暮らしだからね。うちにもあるよ~』、みたいな感じで、時にはジョークで笑わせながら追い詰めていくところがマジで怖いです。

よく言う『語るに落ちる』というやつで、雑談に応じているうちにしゃべりすぎてしまい、その言葉尻から辻褄が合わなくなっていく様は、まるで詰将棋を見ているかのよう。一見関係無さそうな会話から落としていくFBI捜査官のテクニックは、ある意味見事でした。

リアリティは、日本車に乗って保護犬を飼い、自宅の冷蔵庫にはナウシカのマグネットを貼り、スマイル型のキッチンスポンジを使っているような、ごく普通の20代の女性に見えます。

そんな彼女がなぜ国家情報をリークさせたのか、またそもそも、その情報にどんな意味があったのかなど、細かいことは映画ではほとんど語られないため、本作を深く理解するには、ある程度情報を入れておかないといけない映画でもありました。

ということで、以下簡単に調べた情報などをまとめておきます。これから観ようという方や、意味が分からなかったという方の参考になれば。



□ 背景
リアリティの逮捕は2017年6月。
前年2016年には、大方の予想を覆してトランプが選挙に勝利し、大統領に就任。大接戦だった選挙結果によってアメリカの世論は分断、また、大統領選挙にロシアがハッキングによって選挙介入した疑惑、いわゆる”ロシアゲート疑惑”がニュースを賑わせています。

映画の冒頭で流れているニュースは、そのロシアゲート疑惑を追求しようとしていたコミーFBI長官がトランプによって解任されたというニュースでした。

□ リアリティは何を漏洩させたか
ロシアによる選挙介入に関するNSAの諜報報告書を、匿名のニュースサイト『ザ・インターセプト』に漏洩。

□ なぜ漏洩が発覚したか
リアリティはNSA局内で情報を印刷し、それをインターセプトへ郵送。それを受け取ったインターセプトは、そのコピーを元にNSAへ事実確認を行ったため、NSA内の監査によりリアリティの犯行が露見。
(報道機関とは思えないずさんなやり方のため、インターセプト側への非難も高まった)

□ リアリティはなぜ漏洩させたのか
本人は国家に害をなす行為を明るみに出す正義のためと主張するも、本人の就職条件が悪い(ペルシャ語など多数の言語を操るも、高等教育がないため非正規だった)ことや、空軍所属時にアフガンのドローン攻撃対象を定めるための通訳をしていたことからくるPTSDの影響など、詳細は不明

(ちょうど先日観た「ドローン・オブ・ウォー」でも民間人被害がひどかったため、PTSDになるのは理解できます)

参考:
ドローン・オブ・ウォーのfujisanの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画
https://filmarks.com/movies/59309/reviews/163731969

□ ”ロシアゲート疑惑”そのもののその後
大統領になったトランプは疑惑を一切否定。最終的にロシアによる選挙介入があったことは認めつつも、FBI長官を更迭するなど、疑惑の追及そのものを妨害し、いまだ真相なうやむやなまま。

□ リアリティの逮捕とその後
リアリティは2017年6月に逮捕され、その後有罪となり、5年3ヶ月の刑を言い渡される。これは同種の容疑での史上最長の懲役刑だった。その後、模範囚であったことから2021年6月に釈放。

違法行為であったものの、彼女の行動は第二のスノーデンとして話題を呼び、本作のキャッチ『正義は、悪なのか』にあるように、彼女の行動を検証する形で、多くのドキュメンタリーや舞台劇、映画が作られ、本作はその一つ、ということになります。



余談ですが、本作のような会話の内容そのものが映画になっている作品で日本語字幕を付けるのは、相当難しかったのではないかと思います。

そんな本作の日本語字幕を担当されたのは額賀深雪さん。ドキュメンタリー「ナワリヌイ」の日本語字幕も担当されていた方で、さすがだなと思いました。

映画のタイトル「リアリティ/REALITY」は、彼女自身の名前でもあり、本当の真実は何なのかを問うダブルミーニング。短いながらも内容の濃い作品でした。




2023年 Mark!した映画:330本
うち、4以上を付けたのは37本 → プロフィールに書きました
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