全編、スタイリッシュ。「なかなかセンスあるなあ」と。
まず「尋問音声一言一句完全再現!」というコンセプトがよい。「実話を元にした映画」なら数多あるが「咳払いに至るまで完全再現!」までズバっと打ち出したのはそんなにない。こう来られると、何気ないシーンでも「これも言うたんかな?」と気になる。なので全編を通して緊迫感が宿る。だから1シチュエーションでも見せ切れる。
また、それを見せていく際の画作りもよい。実際の録音データの波形が挟まってくるタイミングも気持ちいいし、伏字の部分も「ピーー」で済ますのではなく、発言者自体がズバン!とデジタルに消える感じもセンスある。
加えて、会話劇としてもセンスがよい。何気ない会話から入っておいて、突然「なんで君は自分からプリントアウトの話をしたんだい?」と切り込んでいく「間」もうまいし、女性主人公の「顔芸」もうまい。隠していた事を言う時、ああいう、ちょっと泣いてるような、それでいて、何でか怒ってるような顔するよなあ、とか。
けれど。「スタイリッシュ」とは、裏を返せば「見え方は斬新だが、中身は…」ということもでもあって。
実際、観ている時は緊迫して観ていられるが、観終えて映画館から出るころには「結局、何を伝えているんだっけ?」というグレーな気持ちにもなるのであって…
いや、そう言うと「メッセージ性のない映画」と言っているように聞こえるかもしれない。しかし、そういう事を言いたいのでもない。
むしろ、この「外身はスタイリッシュ=中身は灰色」こそが映画全体の大きなメッセージなのかもしれない、と。そんなことを思うのだった。
というのも。そもそも、この女性主人公の「胸の内」が「灰色」だ。
事件自体は「全米を揺るがせた衝撃の文書リーク!」と「大それて」いる。だが、そんな「大事件」の背景を追求していくと、待っているのは「灰色中の灰色」になる…。
一応、「リーク」までのあらましを追っておくと。
事件は2016年10月に出された、トランプ(当時)大統領候補とロシアの「つながり」に触れたアメリカ国土安全保障省(DHS)の声明に端を発する。
当時、共和党トランプ候補と大統領の座を争う民主党ヒラリー・クリントン(当時)候補陣営はサイバー攻撃を受け、党の機密メールが流出してしまう…。
そこには、民主党の候補者指名を巡りクリントンと争ったバーニー・サンダースを批判する「内ゲバメール」等も含まれていた。これらにより、民主党はイメージダウン。
これがきっかけなのか「トランプ大統領」が誕生することとなる。
しかし、先の声明は、このサイバー攻撃に”トランプ陣営”が関わっていたと指摘。つまりトランプはロシアと組んで、ヒラリー陣営に「ハッキング」を企てたのだと。
その後、FBIが捜査に動くも、トランプがFBI長官を解任するなどすったもんだが続く(映画冒頭で映っていた実写映像はこの時のもの)。そんな中、2017年5月になされたのが本作の女主人公リアリティ・ウィーナーの「リーク」だった。
実は、アメリカ国土安全保障省(DHS)が「声明」を発する前から、彼女の務め先であるアメリカの国家安全保障局(NSA)はこのことを「諜報活動」により知っていた(名前が似てるので何ともややこしいが、、)。にもかかわらず、勤務先はそれを公表しなかった。だから「リーク」に踏み切ったのだと。
映画では、FBIの面々が女性主人公を尋問して「リークしたかどうか?」を吐かせているが、そこに至るまでにはこうした経緯があった。
ともあれ「衝撃のリーク」はなされたと。けれど、その裏にあったのは何か?と言われると「灰色」というしかない。
例えば、「ベトナム戦争にまつわる政府の隠蔽」を明るみにしようとしたダニエル・エルズバーグ(「ペンタゴンペーパー」をリークした記者)のごとき「ジャーナリストの使命」がリークの裏にあるなら、まだ理解ができる。だが、そういうことでもない。
といって、ウィキリークス創始者のジュリアン・アサンジが言うような「思想」≒「クリプトアナーキズム(すべての言論は透明であるべき!)」があるわけでもない。
深読みしようとして、映画内に何度も映し出される「ナウシカ」のごとく、気候変動問題(環境問題)に背を向けるトランプ政権への抗議があったのかと思おうとしたが、それもそれで無理がある(笑)
一応、映画内では、今いるポストへの不満や、トランプ寄りのFOXニュースばかりが流される職場への「いらだち」があったこと等が描かれる。また、当時(2017年ごろ)の状況から推察すると、テレビでは連日「ロシア疑惑」報道がなされていたんだろう。それを観て「怒りが募った」という類推も容易に成り立ちはする。
また、実際の主人公の生い立ちを追った記事などによれば、外国語を覚えるきっかけともなった愛する父との死別や、アフガン戦争時のアメリカによるドローン攻撃の際の「トラウマ(PTSD)」なども指摘されている(彼女は当時、作戦の通訳任務を行っていたそう)。
けれど。そうした背景を挙げられれば挙げられるほど、話が見えなくなってくる。いや、それぞれ事情は察するものの、そんな「個人的理由」で国際政治を揺るがすような「暴挙」が行われたのか?と。別にリークを肯定するわけではないが、やるのなら、もっとバシっとした「大義」があってくれよ!と。そんな気持ちになる。「灰色」で言いたかったのはそういうことだ。
けれど、「灰色」なのは主人公の「胸の内」ばかりではない。そもそもこの「ロシア疑惑」自体が「灰色」なのであって。というのも、「大統領候補とロシアのつながり」という”大それた触れ込み”から始まり、FBI長官の解雇など、衝撃の展開が続いたこの事件だが「結局何だったのか?」というとはっきりしない。
その後、トランプの側近達の起訴や、ロシア人の起訴が相次いだものの、2019年3月に公開された捜査報告書によれば「ロシアがトランプ氏の陣営と共謀または協力していたとは立証できない」と。またトランプの司法妨害については、「トランプ氏が罪を犯したかについては結論を出さないが、潔白とするものでもない」と。
「やっていないとは言えないが、やったとも言い切れない」という「灰色」ぶりがはなはだしい結果になっている…。
つまりは、リークする側も、される側も「見た目は鮮烈だが、中身は灰色」という印象を残す事態となっている。
何とも「もやもや」する話であはる。けれど、その一方で、この感じが今の「リアリティ」だという気もする。
もはや、社会が複雑になりすぎて、皆、自分が何のために、何をしているのかがぼんやりしてしまっている。
ゴーギャンの絵ではないが「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」と。
テクノロジーは進化し、事実の断片は容易に把握可能になったものの、肝心の人間の行動背景がぼんやりしている。だから「鮮烈な(バズる)断片」は飛び交う一方で、全体としては「茫洋」としている。
そう考えるなら「鮮烈な外見=灰色な中身」を描く本作は、そうした今の時代の空気を”鮮烈に”伝えているのかもしれない、と。そんなことを思うのだった。