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またヴィンセントは襲われるのJFQのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

正直、タイトルとあらすじに尽きていて、、それを超えてこない内容ではあったけれど、、でも、面白くは観れた(笑)。いや、自分がこういう不条理な感じが好きだっていうのはあるけれど。主人公がスーパーに入ったら中で全員と目が合って、束で追いかけられるとことか笑ってしまった。80年代のホラー映画みたいな電子音も味があってよかったし(笑)

それに「目が合ったらなんか知らんけど襲われる」という着想はありそうでなかったから新鮮ではあった。

そう、「ありそうでなかった…」。ここがポイントだと思うのだった。
というのも、おそらく、ここ数年、世界がいろんなことを経験してきたからこそ、この設定に人々は「ピンと来ている」のだと思う。少し前だったら分からなすぎてピンと来なかったんだと思う。
別の言い方をすると「不条理」にも、「そそる不条理」と「単にわけわからん」があって。前者になるには、世界が、いろいろ経験する必要があったんじゃないかと。そんなことを思う。

例えば、我々日本人は、数年前「元首相のテロ事件」を体験している。あれもぶっちゃけ言えば「ようわからん事件」だと思う。「元首相の目線」で言えば、この映画とたいして変わらんのではないか。「なんか急に顔色が変わった輩が俺を襲ってきてさあ…」と。。天国で聞いたらそう答えるんじゃないかと思う。
いや、最初にSNSなんかで言われたように、犯人がいわゆる「アベガー」であれば、なんとなく事情はわかった。けれど蓋を開けてみれば違った。犯人はむしろ「アベガー的な人たち」を嫌悪していたのだった…。犯人的には敵は旧統一教会だったが、いろんな偶然が重なって、元首相を襲うことになったのだった。
なんなんだこれは…と。

また、我々は、そうした「なんなんだこれは」を世界レベルでも経験している。ロシアとウクライナを想起してほしい。あれも、いろんな専門家がいろんなことを言っているが結局、なんなんだ?と。なぜ、ロシアはウクライナを奇襲せねばならなかったのか?未だもって誰もよくわかっていない…。

さらにいえば、世界は4年前「未曾有のパンデミック」を経験している。それにより我々は、いい人だろうが、悪い人だろうが、ある日、突然、急に顔色が変わり、この世から消てしまう…という体験をしている。日本で生きていれば、「なぜ、それまで、おおいに人を笑わせていた志村けんさんが急にこの世から消えねばならなかったのだ…」と思った人も多いだろう。

こうした「なんなんだこれは?体験」の連続が、本作に「ピンとくる何か」を与えているのだろうと思う。だからこそ、「ありそうでなかった」ものが今生まれ、世界の映画館で上映されるようになっているのだろうと。

それでいえば「映像に漂うグダグダ感」も、功を奏していた。
映画では「目が合うと人が狂暴化する現象」が、急に始まったり、突如終わったりする。そうかと思えば、人を狂暴化させる側だった主人公が、急に、狂暴化したり…と、「なんでもありか!」な状態になっている。。
これも少し前なら「グダグダやんけ」で終わったかもしれない。けれど、今ならば、その「グダグダ」がある種の「リアリティ」につながっている。

たとえば、さっきも書いたように「テロ」と言っても、今は、かつてのように何か強い主義主張があって行われるのではなく、紆余曲折あって、偶発的に起きるものであって…。

「米国の議事堂襲撃」という前代未聞の事件であってさえ、襲撃した当人たちも「結局、俺らなんでやったんだっけ?」という状態なのであって…。

だからこそ、そうした「グダグダ」や「渾沌」とした今の気分を可視化したゴダール「WEEKEND」の再来のような渋滞シーンには、強く惹きつけられた。そうだよな、今ってこんな感じだよなあ…と。

とはいえ。ラストのムード歌謡みたいな曲でしめる感じは不条理すぎだった(笑)カウリスマキとかのファンなのかもしれないが、この曲で終わるってなんやねん!と不条理すぎて、またも笑ってしまったのだった…。
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