たく

貴公子のたくのレビュー・感想・評価

貴公子(2023年製作の映画)
3.8
予告編を見てサイコパスが登場するクライムサスペンスかと思ってたら、良い意味で裏切られた。パク・フンジョン監督は「THE WITCH 魔女」の1作目が好きで、本作でも素早く残酷なアクションが盛り込まれてたけど、後半になるほどあえて外してくるコメディ演出が目立って楽しい感じに終わるという不思議な作品だった。その一方でコピノに象徴される貧富の格差や差別意識という社会問題も描かれ、単なるエンタメに終わってないのが見事。舞台役者の経歴が長いらしいキム・ソンホは初めて見たけど、飄々とした味が良くて今後出てきそうな役者さん。

冒頭で淡々と仕事をこなす貴公子の冷徹な手際で彼のサイコパスっぷりを見せておき、殺しのターゲットを「友達(チング)」と呼ぶのを含めて観客をミスリードする演出だった。舞台はフィリピンに移り、そこで暮らすマルコは韓国人の父とフィリピン人の母の間に生まれたいわゆる「コピノ」で、病気の母の治療費を稼ぐためにボクシング賭博の選手をしながら、韓国で暮らしてるであろう父親の行方を探してる。ある日なぜか父親の方からマルコにコンタクトを取ってきて、丁重な送迎によってマルコが韓国に向かうところから不穏な展開になってくる。

本作はマルコを執拗に追う貴公子と、マルコを父親の元に送り届けようとするハンの一派、そして謎の女刺客の三つ巴の構図で進行するんだけど、観てる側としては今どういう状況にあるのか全く分からないのと、マルコと貴公子の追いかけっ子が延々続くのがちょっとイライラさせられた。最後まで観ると、これは90分に収まる話だったね。

冷酷な殺し屋が異常にオシャレに気を遣い、返り血を決して浴びないというステレオタイプな演出を逆手に取ってるのが最高だった。貴公子が激しく咳をするのが余命わずかと思わせておいて、銃弾の擦り傷で異常に痛がるのがあれ?ってなってからのオチが笑う。終盤の激しいアクションのテンポがパク・フンジョンらしかったけど、カメラをブンブン揺らすのがアクションの切れの良さを分かりにくくしてて、ちょっともったいなかった。原題”The Childe”はマルコのことで、遺産相続の鍵となる存在をストレートに示してるのに対し、邦題は映画の最後までそのままの意味で受け取っていいのか戸惑うところにひねりが効いてて秀逸だった。
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