藍紺

6月0日 アイヒマンが処刑された日の藍紺のレビュー・感想・評価

3.9
アドルフ・アイヒマンをWikipediaで調べると彼の犯した罪はあまりにも大きくて、想像を絶する悪行の数々に言葉も出ない。

今作はそのアイヒマンがイスラエルで処刑されることになり、彼と多かれ少なかれ関わりを持つことになった三人の視座で物語は進む。
年齢も違えば生まれた国も人種も違う。そしてナチスとの関わりの深さ、実際に受けた迫害の有無も異なる。アイヒマンに対しての憎悪や処罰感情も様々だ。
アイヒマン処刑後に使用する焼却炉製作に携わることになる少年ダヴィットはリビア出身のアフリカ系ユダヤ人でホロコーストにもさほど関心がないのだが、きっと現実にイスラエル国内でもこういう温度差はあったのだろうと思う。そんなダヴィットも現地のユダヤ人からは差別の目で見られていて、ここにも人種問題の根深さが露見し、小さな火種はあちこちにあるのだと改めて思い知らされる。
遠い国の出来事であっても自分に直接関係なくてもまず知ることが何より必要で、wikiで見てわかった気になるよりもこうやって作品から歴史に触れること、歴史から学ぶことが本当に大切なのだと心から思う。
個人的にはアイヒマンの監視をすることになる刑務官ハイムの心情描写が凄かった。処刑する前に自殺でもされて死なれては一大事だものね。過剰なまでに神経をすり減らすハイムが気の毒だけどちょっとユーモラスでもあり、だからこそアイヒマンの処刑が無事終わり安堵する彼との対比が効いていた。
一生癒されない傷を負ったアウシュヴィッツの生存者ミハはこれからもホロコーストの語り部として生きていくのだろう。彼の喜怒哀楽を見せない表情が印象的。体験者の話に耳を傾け続けることこそ残された私たちが出来ることなのだろう。腕に刻まれた囚人番号が頭から離れない。
藍紺

藍紺