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月のdendohのネタバレレビュー・内容・結末

(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

原作未読。現実の事件の詳細な経緯を把握していないので、今のところそちらとの比較も出来ない。その上での感想。

兎に角暗い。現実の事件をベースとした劇映画と言えば直近では福田村事件があったが、あれよりも更に暗い。福田村事件と同様、最後に事件が起こる前提で鑑賞したので、最初から最後まで緊張感は持続。午後の鑑賞で寝落ちの危険があったが、本作は飽きずに最後まで集中して鑑賞できた。社会的には、精神障害者の扱いの悪さや優生思想の異常さを知らしめる意味で意義のある作品と思う。細かく(主に障害者の)表象を見ていくと粗はあると思う。

事件が起こる背景に劣悪な施設環境や虐待があり、そこから犯人は凶行に及んだという話になっている。現実のやまゆり園でそういう話があったか知らないが、自身の祖母の精神病棟入院時の扱いや、日本の人権問題としてこのあたりは把握していたので、もし脚色としてもあり得るし上手いなと思った。

事件と並行して、主役夫婦が障害児と死別した話や、現在進行系で妊娠した子供を産むかどうか、或いは出生前診断の話が出てくる。それに加え、夫婦は健常者の立場だが、夫のオダギリジョーはキャリアに穴があり、宮沢りえも一発屋の小説家として長年のスランプに陥っており、それぞれ『生産性がない』というどこかのS田M脈の言葉に終始苦しんでいる。

私が一番気になったのは、最後に夫が賞を受賞し、妻は物書きとして恐らくは復帰する点(作品が世に出るまでは描かれていないが、書き上げてはいる)。これやってしまうと『生産性がない』というスティグマを否定できないんじゃないかという事。障害者に限らず、人間は存在するだけで価値があるというのが人権国家の土台であるはずで、彼ら夫婦は最後まで成功させない(それでも人間的価値は何ら毀損していない!)方が話としては良かったのではと思った。

なお感想を読んでると、さとくんに共感したりするレビューがあって怖い。描き方の問題なのだろうか。『障害者は生きている価値がない』と判断させてしまったのは、上記の通りそういう施設側の問題。これは日本全体の宿痾で、小手先の対処と言うより、日本に人権機関がないことや、国民レベルで人権意識が薄いことが根本的な原因だと思っている。鑑賞者側の意識向上の意味でも真っ当な人権教育は絶対に必要だと思った次第。
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