実際の障害者殺傷事件を題材に作られた映画だが、この手の事件が起きると必ず、犯人はけしからん💢、間違った思想だ!気の毒な患者さん達は皆んなで面倒をみていくべきだ!!との声が上がる。
ところで皆んなって誰??
同じ介護施設での無差別殺人を扱った作品に「ロストケア」がある。「ロストケア」は訪問介護事務所を舞台としているが、本作の舞台となるのは重度障害者施設である。
そのどちらにも共通するのは、物語の背景には4つの世界があるということだ。
①重度障害者や認知症などの患者
②その患者をお世話する介護職員
③障害者や認知症患者たちの家族
④安全地帯に身を置くその他の人
本作では③④の人達も登場するが、ほとんど物語の中には入ってこない。
どちらの映画も意思疎通のできない①の人達を客観的な描写で描きながら②の世界を中心に物語は進んでいく。我々観客は、③か④の立場でこの映画を観るのだが、③と④では見えてくるものも受け取り方も全く異なるだろう。
介護職員の人達から見れば④の人達の言うことは、綺麗事であり戯言にも聞こえるだろうし、③の人達からは無理難題を言われる事もあるだろう。大変な仕事であり、ストレスも多いことは容易に想像できる。
本作の舞台となる重度障害者施設は、人里離れた森の中にひっそりと人目を避ける様に建っている。多くの(安全地帯の)人は、こうした患者や施設と関わりを持ちたがらず、その姿や音や匂いとも無縁でありたいと思っているはずだ。わかりやすく言えば、日々の生活の視界に入ってほしくないわけだ😔
更に言えば、こうした人達や介護職員の人を大変だなと同情しながらも、自分が積極的に何かしようとは動かないし、できれば経済的負担もしたくはないと思っているのだろう。
あってはならない身勝手な発想による事件だが、礒村勇斗が演じたこの犯人個人を非難するだけでは何の解決にもならない。
その背景にあるものは何なのか?
社会としてどうすべきなのか?
自分に何ができるのか?
改善のための痛みは誰が負担するのか?
真剣に考えなければいけない映画だと思う。