ひこくろ

月のひこくろのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.6
人間の生きる意味とか価値とかを考えさせられる映画だった。

障害者施設に入っている患者たちは、当然だけど、普通には生きられない人たちだ。
奇声を発し、奇行をを繰り返し、時には危害まで加えてくる。
なかにはまるで動けない人もいる。

そういう人たちに対して「生きてることはそれだけで意味がある」と言うのは簡単だ。
美しい言葉だし、人間を尊重している感もあるし、なにより耳障りがいい。
でも、冷静に考えれば、本当にそうなのかという疑問が湧いてくる。

身体も動かせず、話もできず、意思疎通もできないでただ眠り続ける人に生きている意味はあるのか。
その人が生きていることに何らかの価値は存在するのか。
問いは、彼らだけではなく、普通に生きている人間にも向けられていく。

書くことのできなくなった作家に生きている意味はあるのか。
誰からも認められない小説を書き続ける女性に生きている意味はあるのか。
障害を抱えて生まれてくる子供に生きている意味はあるのか。

生きていていい人間と、そうでない人間。
普段、考えることなく、いや、目を向けることなく過ごしている問題が浮き彫りにされる。
人とは何か。生きている意味とは何か。生きる価値とは何か。

映画はとことん暗く、それだけでなく、あらゆる会話が暴力的だ。
人の心を抉り、刺し、傷つける会話が延々と繰り返される。
そのなかで、タブーとも言える問いが繰り返される。
「人が生きる意味とは何なのか」と。

ひとつだけ気になったのは映像表現に、時々、なんだそれってものが混じってくるところ。
石井裕也は相当に上手い監督なので、それもおそらくはわざとやっているんだろうけれど、意図がつかめなかった。
「なんでこんな撮り方してんの?」と単純に思ってしまった。
ここら辺は、詳しい人の解説とか聞いてみたい。

きれいごとではなく、本音を突きつけられた時、僕らはなんと答えられるのだろうか。
そういう問いを突きつけてきた映画だと思った。
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