亘さん

Chimeの亘さんのレビュー・感想・評価

Chime(2024年製作の映画)
4.9
見終わった後の第一印象は「黒沢清恐怖の幕の内弁当」。これまでの黒沢清作品の恐怖の純粋なエッセンスを45分にギュっと詰め込んで自由に作ったような印象だった。配信専用プラットホームRoadsteadの第1回オリジナル作品という事で、配信でしか見られないと思っていたけど劇場で見られたのは嬉しい。そもそも配信作品なので時間や規制にとらわれず自由に作品を発表出来る場があるのは、製作者にとって心強いだろうしファンにとっても嬉しい。

料理教室の講師である松岡の周りで起こる奇怪な事象の数々には一切説明がなく、何かの異常が増幅するのに淡々と進んでいく事に困惑する。「チャイム」は何かを誰かが合図したり知らせたりする為の物だ。誰が何を知らせているのか全く分からないのに止める術はなく、そしてチャイムに応じた事で狂気は膨らんでいく。見て見ぬふりをしたところでその狂気は自分に及んでくる。

ニュースを見ていて「昔はこんな事起こらなかったのに最近は異常な事が次々に起こる」と思った事はないだろうか?コロナ禍以降はそれが加速しているのに皆「自分には起こらない」という正常バイアスで生活している。そういう社会的な不安を極端に可視化したようにも思えた。
恐怖というのは人により違う。仕事や大切な人を失う事、嘘がバレる事、幽霊、犬、虫、将来の不安、高い所、狭い所、ピエロ、病原菌等。もしチャイムを鳴らされてその恐怖の根源が取り除かれるとしたら、その先には常軌を逸した安堵があるのかもしれない。

主人公吉岡を演じた吉岡睦雄さんが上映後に登壇されて映画の裏話を聞く事が出来て大変良かった。黒沢清監督がDCの『スーサイド・スクワッド』を見ているのは意外だった。吉岡睦雄さんの恐怖に叫ぶ顔が本当に怖くて、ああいう演技するのって卓越した技術なんだなと思う。素晴らしかったです。上映後にご本人とお話する機会があったのにちゃんと言えば良かった、と今更後悔している。
亘さん

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