おそば屋さんのカツカレー丼

奇跡のおそば屋さんのカツカレー丼のレビュー・感想・評価

奇跡(1954年製作の映画)
4.0
インガーの葬儀は、棺を中心に据え、線対称に椅子が配置されているカットから始まる。淡い光の差すシンメトリーの構図に、ドライヤーの、このシーンに懸ける気合いを見て、こちらも椅子に座り直した。室内の各所に置かれた椅子にそれぞれが腰掛け、奥行きある人物の配置を、動きのある空間的なカメラが捉える。それまで違和感があるほど多用されていたこのカメラワークが、最も崇高で美しい奇跡の目撃へと結実する展開は実に見事である。
しかしながらそれ以外のシーンはというと、室内を引きのカメラで捉えていても単に平面的な印象が強く、事実の羅列があるのみに見える。更に言えば(これはテーマを考えれば妥当かもしれないが)、人物に強くフォーカスが当てられないため、それぞれが非人称的なまま物語が進んでいくのもあまり好きではなかった。どれだけクライマックスが素晴らしくても、それまで観客を惹き付けておける程の力はあまり感じられないのだ。
とはいえ、この『奇跡』があったからこそ、映像による水平と垂直の魔術が最高純度に発揮された『ゲアトルーズ』が生み出されたということは至極納得できるものであった。