トッシー

市子のトッシーのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.9
はたしていったい
この物語の中で…

1番可哀想なのは誰だったのか?

1番苦しかったのは誰だったのか?

1番助けてあげないといけなかったのは
誰だったのか?

1番悪いのは誰だったのか?

考え込んでしまった…



努力や才能では
どうすることもできない
社会の闇に嵌まってしまった
主人公、市子。

その人生の悲劇を
エモーショナルに描くことで

社会的弱者が置かれる厳しさを
浮かび上がらせて問いかけるのが
この映画の大きなテーマのひとつ。
…であったと思うけど

やっぱり、
それだけではないですよね。

市子と関わってきた人物、
それぞれの視点で
市子の過去を語る構成は、
(しかもその人物の名前が
画面にしっかりと表示される)

如実にその辺を
強調してたと思うのだけど
どうなんだろうか…?

実際、劇中には、市子の人生すら、
随分と幸せに思えるくらい
悲惨で凄惨な人生をおくった人物が
登場するじゃないですか…

その人物視点のパートがないことに
何か、製作側の意図的なものも
感じてしまうのだけど…

喜びや幸福に天井がなく
不幸や苦しみにも底がないのなら、

社会のどこかに
さらなる不幸が際限なく
隠れているのなら、

物事の見方や環境によって
それら全てが見えにくくなるのなら、

いったい僕らは何を良しとし、何を憎み、
何と戦えば良いのでしょうか?

世間全般の善とか悪とか
その辺がごちゃまぜになって
どうすりゃ良いか
判断できなくなって

…結局、一人ひとりの
強さって何なのか?
弱さって何なのか?
幸せって何なのか?

…みたいな話に
なってくるんじゃないかと思うんですよ。

だから、すげえモヤモヤしましたよ
この映画のラスト。

それは、強さなの?弱さなの?
それしかないけど、幸せなの?
それで良かったの?
誰が悪かったの?
どうすれば正解だったの?

僕は自己責任って言葉
あまり好きではないのです。

お前の幸せも、お前の不幸も
お前だけのものであるのだから

誰も背負ってくれないのだから

…自分である程度、
何とかしなくてはならぬ!

覚悟を決めて
より良い選択をするのだ!

…って

そんなん嫌なんですよ。
辛いんですよ。

僕なんかヘボいので
誰か一緒に背負ってほしいし
誰が正しい選択を教えて欲しい。

だけど…

そんな覚悟の持ち方次第で
市子やその周りの人々も…
もしかしたら…

…って考えだすと
何だかなあ………

結局、最終的には、シンプルに
凄く切ない気持ちになったのでした。



ああ…

…ものすごくとりとめない
自分でもよく分からんレビューに
なってきた………

なんで、
ここらで俳優陣を
褒めたいと思います。

まず、主人公、市子を演じた杉咲花。
今回、褒めてる方が多いですが
…非常に良い塩梅でした。

市子と言うキャラクターの本質は
悲劇だけでなく、
魔性とか悪意、…の部分も
結構大きいと思うのだけど
そこのバランスが抜群に上手だった。

だんだん怖いところや
嫌なところが見えてきて
可哀想だと感情移入してたのに
話がすすむにつれ
その感情、グラグラになったもん。

最後なんか突き抜けちゃって
もうこれ、「ヴィラン」だと思った。

これからゴッサムシティに
引っ越すのかと思ってしまったほどよ。
上手かったなあ…

そして、市子の恋人役を演じた
若葉竜也。

この役も、結構狂ってるんだけど
優しい普通の人間が
切羽詰まっておかしくなっていく
平凡な狂気を丁寧に演じていて
凄く好感が持てた。
若葉竜也、やっぱり良い俳優です。

そして、我らが宇野祥平!
『オカルト』や『コワすぎ!』と
全然違う、渋い刑事を
緊迫感をもって演じていて
白石晃士ファンの僕にとって
ここもポイント高かったです。

…確かに、色んな観方や感想が
ある映画だとは思うのですが、
こんな俳優陣の熱演だけでも
一見の価値は、あるかもしれませんね。



…最後になりますが、
この映画ではその描写が弱くて
少し気にはなったのですが、

弱者に寄り添い、
できるだけ、全ての人が
色んなことに折り合いつけて
幸せに暮らせるようにするのが
社会や政府や制度の役割だと
僕は思っています。

色々思うとこはあるんだけど、
それでも、

市子をはじめ、
この映画に出てくるような
苦しい生き方をしている人々が
すこしでも生きやすく、
そして幸せだと思えるような

そんな世の中に
なったらいいし、なってほしいし、
そうなるように、みんなで考えて
頑張っていかなあかんよね。

2023-58
トッシー

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