トッシー

怪物のトッシーのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

普通にメチャクチャ面白かった。

多分にメッセージ性の
強い作品だけど

今まで観た、
是枝裕和 監督作品の中で
エンターテインメントの観点でも
抜群に面白いと感じました。

様々な登場人物の視点から
物語の裏にある「本当の事」が
徐々に明らかになっていく展開には
やっぱりミステリーとしての面白みが、
ぎゅうぎゅうに詰まっていて

思いっきり引き込まれてしまった…

今回、シナリオを坂元裕二が
担当しているので
その影響も大きかったんかもね。

それまでにあった色んな違和感が
一気に解消される終盤の展開には

「なるほど!!!」
…と驚きと感心を叩きつけられると共に、

その切迫したメッセージに打ちのめされ
襟を正させられもしました。

だから本当に凄くて良い映画!
…なんだけども…

鑑賞後、
ものすごく複雑な気持ちに
なりましたです。

「もう、それはお前
ちょっと考えすぎやで
逆に面倒くさいで!」

…って誰かに言われそうな気もするけど

この気持ちを吐き出したいので書く!


…今回、僕はこの映画を
ド級のヒューマンミステリーとして
すこぶる楽しんだわけなのですが、
はたして、楽しんどる場合だったのか?

これを、そのように楽しめる
…と言う事は…

多様性を受け入れる事とか

マイノリティの人達への理解とか
寄り添う気持ちとか

価値観のアップデートとか
周囲との連帯とか

その辺りの感覚が
なんだかんだ言うてお前、
鈍いんやで…!って事の
証明なのではないでしょうか?

つまり、

この映画を
ミステリーとして
無茶苦茶楽しんだ僕の心の奥底には

少年同士の恋愛など
この世界に、あるわけがない。

…って言う偏見があった。

…………

…あったんだと思うのです。

そうでなければ、
この映画は僕の中で
シンプルに若者の
悲恋物語として消費され、

ここまで面白くも
感じなかったと思うし、
ここまでの衝撃も
受けなかったと思うのよね。

ものすごく
意地悪な表現をすると

この『怪物』は
多様性への受容性が乏しく
マイノリティにもまだまだ
冷たく厳しい世の中…

それを前提とした映画。
…なのではないでしょうか?

本当は、この映画が、
衝撃や特異性や
ある種の気づきを伴って
観客の心を打つ…

…そんな受け止められ方をしない方が
多分、絶対、良いんよね。

「怪物、まあ、普通に面白かったです。」
…みたいな感想で
点数も3.8点くらいで落ち着いてる方が
本当は良いんですよ。

だから、
こんな高得点をつけている僕自身、
少なからず色んな事を吸収して
変わっているものと思っていたけれど、

本質は何も変わって
なかったのかもしれない。
今頃襟を正してんなよ…って話で。

だから、
凄く複雑な気持ちになったし、

ラストシーンの
「何にも変わらないよ!」…が
世の中への痛烈な皮肉と批判に聞こえて
とんでもなくヘビーだった………



…でも、だからこそ、
今観るべき映画であるのは
間違いないと思います。これ。

20年後、いや、10年後、
当時の時代背景を
しっかり理解してないと
面白さが分からない
古典映画になってるかもしれんよ。

怪物、何が面白いのか分からんなー
みたいな世の中になってるかも。

…なっててほしいですよな………



最後になりますが、この映画、
俳優陣の好演、怪演が
際立っておりましたよね。

メインの子役2人
黒川想矢と柊木陽太は
素晴らしかった。

特に柊木陽太。

柊木陽太が演じた依里は
非常に大切なキャラクターだけど
バチクソ難しい役柄だったと思う。

けど、バッチリハマってた。
見事だった。
よう、こんな子役見つけられたな…

大人の出演者も芸達者な実力派ばかりで
観ていて気持ち良かったです。

(………田中裕子はやばいよ…
底の見えない虚無。
最初から最後まで虚無。
やばい人だった。)



それにしても
このメンバーをまとめ上げて
形にして映画にした
是枝裕和はやっぱ凄いよね。

衝撃的で意地悪で面白くて
観る者の心を掻き乱す…
そんな映画を
ブチ込んできてくれましたからね。

怪物は誰だったのかと問われたら、
僕は是枝裕和であると答えて
一旦、ひれ伏します。

それくらいの映画だとは
思いますよなあ…

2023-65
トッシー

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