「邦画のあまり好きになれない部分」が濃密に感じられて、いいなと思うところがそれなりにあっただけに残念な気持ちがより深く広がった。
少なくとも彼女が犯した罪を真剣に償わせようとする人の存在は必要だと思う。この映画はそれをほったらかしている。
ずっと出ている若葉竜也の人物像が「市子の真実を知りたいと思っている」くらいしか出てこない。警察じゃないんで話してくださいみたいな言い草で、ずっとただただニュートラルなだけでもやもやする。
ただただ、生まれた境遇が悪かったが故にイノセントな存在(市子)が汚れていく様、最後はそれを全て「どこにでもある日常の幸せ」(彼女はもう取り戻せない)で上書きして泣かせようという魂胆がめちゃめちゃ透けているように思えた。
いかに彼女が罪を犯さなければならなかったのか。そこの絶望をしっかり描かないと市子の心情を慮ることは難しい。社会の中で「見えない存在」に対して物語でその存在を拾い上げるなら、「戸籍がないと大変だろうな。貧困は大変だろうな。若い頃から介護をしないといけないのは大変だろうな」くらいの安易な掘り下げで簡単に登場人物を絶望させてほしくない。
一方で、グレーのシャツに汗を浮かべながら人工呼吸を手伝う杉咲花と月子の視線の交錯はめっちゃ良かったし、鼻歌が冒頭と最後の母でつながるみたいなところはよかったと思った。
