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市子のakihiko810のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.1
川辺市子(杉咲 花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、忽然と姿を消す。途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を探しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生...と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は市子が置いていったカバンの底から一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。

これは…杉咲花の「驚異的な魅力」で立ち上がっている作品。個人的には、傑作か、その一歩手前の佳作といったところ。
杉咲花の存在感は、百点満点で三百点。ただ脚本面があともう一歩ほしかった、という感じがしなくもない。

本作のメインテーマである「市子はなぜ消えたのか」であり、それが次第に明かされていくのだが。
「市子には戸籍がない」というのは前情報で知っていた。物語冒頭の、市子と長谷川のすばらしい「ささやかな幸せ」のシーン、杉咲花演じる市子はまさしくこの映画での(そして観客にとっての)女神(ミューズ)なのだ!と思わせておいての失踪、そして次第に明らかになる市子の過去と素顔の一面…。
「え、市子にこんな過去が!?」みたいな予期してなかった展開だったので、顔面パンチを食らったような感触。
市子は我々が思うような(望むような)単純な女神ではないことをつきつけられて、少し困惑した。

こういう脚本上の仕掛けはうまいな、と思う。
ただ、後味が「もやもやしたものが残る」もので、残念ながら作品にぐっとくるようなカタルシスがもたらされるものではなかったため、「傑作と呼ぶにはなんか惜しい」感じがしなくもない。

とはいえ杉咲花の存在感は本当に素晴らしく、満足な作品であった
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