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青春ジャック止められるか、俺たちを2の教授のレビュー・感想・評価

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ファーストシーンのVHS方式のビデオカメラの件。値段についてのやり取りで「当時」の男子高校生が「高っ!」と発した時点でほぼほぼ映画に関しての興味が下がってしまった。
最後まで観てしまえば、描かれている世界への愛らしさは感じなくもないが、作劇に関しての詰めが皆無で正直心を強く閉じてしまったのは否めない。
理由はもうおわかりであろうか、舞台設定の1982年。そんな言葉遣いは誰もしていなかったからだ。

このディテールが意図的ではなく無自覚的な表現である限りは、本作の扱っている「実話」はアリバイになってくる。
いくらそのディテールの甘さが「若松孝二イズム」だとして、それは通用しないはずだ。
理由は、本作の物語の発端が「若松孝二」だとしても、実質の主人公が監督自身である井上淳一(杉田雷麟)の青春時代が基になっている為だ。それなら自身の映画としてディテールにはきちんとこだわって作るべきだ。

ただ若松孝二を「恩師」と呼ぶ井浦新の「モノマネ」演技については前作同様、その想いの強さがプラスに働いて愛らしい。
加えてシネマスコーレの支配人、木全純治を演じる東出昌大の葛藤を押し殺してニコやかに振る舞う演技の厚みは圧倒的。失礼ながら「粗雑」な映画であるぶん、俳優陣の演技力の高さが救いになっている。

正直な気持ち、映画としては今年今のところはっきりとワースト。説明セリフの多さと、その説明になると途端に芝居が大きくなる演出には閉口する。
「自伝映画」としての理屈っぽさとセンスのなさ、というのは劇中でも言及される通り井上監督の野暮ったさの方が目立つ。
脚本としても金本(芋生遥)の抱える「三重苦」というとってつけたような設定に対して何らリアリティを与えるエピソードや、回収は行われない。この「透明化」された女性像を無理やり導入しているからこそ「パワハラ礼賛映画」にも見えてしまうのは仕方ない。

とはいえ、賛否を呼びそうな若松孝二の独白。メタな構成についてはようやく映画的な次元の歪みの一端は感じられて、凡庸な映画の中にひとつ、物語の愉悦感を感じられたとは言える。
日本映画のひとつの歴史の記録としては嫌いになれない世界だが、豊かな映画的世界を感じられず、またそれが末期的な危機感のなさも感じられて憂鬱にはなる。
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