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ぼくを葬る(おくる)の一人旅のレビュー・感想・評価

ぼくを葬る(おくる)(2005年製作の映画)
5.0
フランソワ・オゾン監督作。

死を目前にした男性の最期の日々を描いた人間ドラマ。

『まぼろし』(01)で愛する夫の死に直面した女性の魂の彷徨を描き切ったフランスの鬼才:フランソワ・オゾンが、今度は死期が迫った若い男性の視点から生と死を見つめた人間ドラマの傑作で、主演のメルヴィル・プポーが病に冒された主人公を熱演している他、彼の祖母役で故ジャンヌ・モローが味わい深い名演を披露しています。

パリでファッションフォトグラファーとして活躍している31歳の同性愛者:ロマンが、あるとき末期癌で余命3ヶ月であることを宣告され、残り僅かとなった人生を噛み締めるようにして過ごしていく様子を描いたもの。人生の終焉を間近に控えた一人の人間の最期の生き様をつぶさに見つめた普遍的人間ドラマで、余命宣告されたあと立ち寄った公園の風景がいつものそれとは違った感じに見えたり、若い母親と小さな赤ちゃんの姿を幼い頃の自分に重ね合わせたり、海水浴客で賑わうビーチにひとり足を運んでみたり―と、新進気鋭のフォトグラファーとして忙しい毎日を送っていた主人公が最期に過ごす穏やかな日々を淡々と映し出していきます。

“死”という誰一人として避けることのできない絶対の現実を、劇的―というよりは、繊細に、かつ真摯に向き合った人間ドラマの傑作で、いわゆる“お涙頂戴”の難病物とは明白に一線を画した作風となっていますし、要所要所で流れる楽曲の叙情性が物語に相乗的効果をもたらしています。
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