ノラネコの呑んで観るシネマ

人間の境界のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.7
2021年、ベラルーシのルカシェンコ政権が西側世界の混乱を狙い、大量の難民を世界から集めてポーランド、リトアニア、ラトビア国境に送り込んだ。
これは人間を武器とした銃声なき戦場を描く、アグニエシュカ・ホランド監督の問題作だ。
映画はシリア難民の一家、国境警備隊の若い隊員、人権活動家のグループ、そしてある出来事から活動家となる心理学者の女性を軸として、四章構成で描かれる。
難民たちはポーランドに入れば、国境警備隊からベラルーシに押し戻され、今度はベラルーシの警備隊にポーランド側に追い立てられる。
ポーランド当局は国境を立ち入り禁止区域とし、活動家も立ち入れない。
社会から隠された無法の国境で、難民たちの人権は双方から無視され、弱い者からどんどん死んでゆく。
本作のエピソードそのものはフィクションだが、脚本は綿密な取材を元に作られたという。
第一義的な悪が、人間を武器に仕立てたルカシェンコ政権なのは間違い無いが、映画はそれぞれの立場で翻弄される人間たちを通して、他に方法は無かったのか?と問いかける。
ここでは難民たちの入国を頑なに拒否するポーランド政府は、翌年のウクライナ戦争では、数百万もの避難民を受け入れる。
無論、隣国の戦争と遠く離れた国からの難民は同義ではなく、難民が発生した理由も異なる。
でも同じ人間として、明らかなダブルスタンダードがあるのも事実。
他者に対して、もう少し優しくなれないものかと語りかける老巨匠に、世界は沈黙したままだ。
ブログ記事:
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