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悪は存在しないの160のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.8

26歳独身の私が、一人暮らしをする上でさほど孤独を感じていないのにはいくつかの理由がある。ひとつは東京という嫌でも人がいる場所に住んでいること、ひとつはSNSがあるため会っていなくとも連絡が取り合える(なんなら知らぬ人とも!)こと、またひとつはその東京という土地で雇われ身であるものの仕事をしており商業的資源として役目をいただいていること、そして、もうひとつは親友のような作品と出逢えていること。そしてこの作品はまさに、そのひとつとなった。

効率、生産性、便利、デジタル化が進んだこの現代社会において、それらはほんとうに必要かどうかなんて考えさせる余地も与えず人々の生活を侵食してきた。
「この街の商店街は利益体制がありません。このまま行くとこの街の未来もありません。ただそれを防ぐ方法があるんです!そう、デジタル化です!」なーんて言われたら、不安を感じている人はとくに救世主が現れたくらいの気持ちで歓迎するだろう。そうきたらもうあとは向こうの思うツボ。インテリアコーディネート、paypay決済導入、広告掲載への誘導、はたまたAIロボットまで導入か。ほんとにこれでよかったのだろうか、なんて思い出した時に「ほらインスタ広告はインプレッション数は3万!クリック数は1万!!!ものすごい数字でしょう!」と“実績”あれど“実態”はない数値データを提示されればその不安は鎮圧することができる。そうして実現した「町おこし」をみて住人はこう言う。「こんなの望んでなかった。」
町おこしに限らず、生産性や効率化、デジタル化は、人々のほんとうの需要なんて無視し、それらを利用して金稼ぎをするため“頭のいい人”の利己的行為でしかない。ただ、この人たちだって、ビジネスマンという側面から見れば「町おこしを成し遂げ街の人の役に立ったいい人」なのだし、資本主義の日本じゃそう言った行為は生きていくには少なからず必要。誰が悪いとかの話か?いや、違うだろう。

社会人1.2年目の時なんて、そんな「問題が生んだ問題」とも呼べる自分の金稼ぎのために世に生み出したやつが金持ちになる世の中かよ、なんて思いが爆発して東京は港区六本木周辺をヘイト100%でロックガンガン、でも通行人誰よりも口角ガン上げ目じりガン下げ特大スマイルでランニングしてやったりしてた。幸せの定義を見つめ直せと言わんばかりに。たった今ひとつの黒歴史ここで成仏なり(でも何度か道案内とかもしてきたからどうか許してほしい)。

ただもう大丈夫。数多くの素晴らしい映画や読書、人々、自然に触れることだけに自分が全力集中したことで私が今思うのは「そういう人たちがほんとの幸せは味わえぬまま死ぬ」ってこと。そんな人らが金を得ても虚無感だろうし、なによりそう言う人が得だお金は、幸せを金で買うためにそいつより幸せな人のもとへ、そしてまたもっと幸せなところへと流れてゆくから。そうして流れ着いた先にいるのは「芸術家」だと私は確信している。立川志らくが言ってた「文明は文化を邪魔してはならない」って言葉、ここ最近見聞きした中でもパンチラインに来たもののひとつだ。

つべこべ言わず、体の健康を心の健康を第一に、周りの人を大切に、夢を掲げ、一生懸命働こう。あとはバッターボックスに立つ権利を獲得できるかと、そこでホームランを打つことができるかの勝負だ。
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