hiyori

悪は存在しないのhiyoriのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
濱口竜介監督の作品。本作は石橋英子のライブに使用されるサイレント映像を製作される過程で生まれた映画だという。冒頭から木々と共に不穏な音楽が鳴り響く。そして男が薪を割り水を汲むだけの時間から3部構成的に物語が展開される訳だが、濱口竜介が一流の演出家なだけではなく一流の脚本家でもあることを再確認する。本作は一種の驚きが隠されているが、淡々と流れる会話の中に伏線回収と言わんばかりのエッセンスが豊富に内在されている映画でもある。グランピング説明会での怒りを抑えながら訴えかける町民と形式的な受け答えをせざるを得ない二人。どちらにも事情があることが現実味を持って会話劇の中で示される展開が見事。「ファースト・カウ」のような開拓精神が宿った土地における本能的な恐怖が沸々と主人公の中で育っていたのか、分からないというリアリティがある。主人公の過去さえ明かされないように。唖然として映画全体を想起する。善か悪か、加害者か被害者かでは計れない、「偶然と想像」の対局にあるような絶対的に分かり合えない点と対峙して如何に不感覚であったかとハッとするのである。ここ数年を何を出しても評価される濱口監督だが、今後どういった方向へ踏み出していくのかまた分からなくなる作品。
hiyori

hiyori