クリストファー・ノーランの作品。オッペンハイマーとストローズの対立を軸に回想を展開し原爆に対する幻夢を描く。赤狩りに対する恐れ、原爆を作ることの是非、国家からの期待。様々に思惑に阻まれ孤高として崩壊する。それをノーラン持ち前の構成力、音響、映像表現で描けば最高の映画になることは言うまでもないが、一人の内面に着目するという意味では「メメント」あたりの作品に近い原点回帰的な装いでもあるが、初めてドラマとして史実と向き合ったと言う意味では新境地とも言える。日本では公開に至るまでに各方面から色々と言われてきたが、案外職業作家的に俯瞰しながら作られている(勿論ノーランの思いが込められているのは前提として)。如何にも政治的になり得る題材でこれ程芯の通った映画にするということは最早ノーランにとっては当然のことなのだろう。政治性やら多様性やらの息がかかった映画がアワードを席巻するようになったがそこに抗うことが現在の命題なのかもしれない。
