Breminger

悪は存在しないのBremingerのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

タイトルがきっと今作の中で一番でかい意味を成してるんだろうなと予想しながら鑑賞。真っ昼間ですがほぼ満席でした。

序盤のゆったりと音楽に合わせて森の中を映す映像でまず画面に釘付けにさせられました。スロースタートな作品は苦手ですし、この時点で合わないかもって思う作品は多くあるんですが、今作は不思議と落ち着く〜となりました。音楽の力もかなり強かったです。

そこから森やその付近の町を映す描写になり、今作の主人公的ポジションの巧の普段の行動だったり、グランピング施設の説明会だったりと、展開が少しずつ動き出していく感じで、ちょっとした違和感がポツリポツリとありました(鹿を撃ったのはきっと出張してきた東出くんのはず…)。

田舎VS都会の構図のようになっていた住民会と芸能事務所の社員の話し合いは中々にスリリングでした。
計画書を示されてもどれもざっくりとしたもので、そりゃ住民も反対するよという内容には思わず住民と一緒に相槌を打っていました。
バランスを大切にというのには思わず納得してしまい、我慢もしなきゃならないし、たまには気持ちを発散させたりと、日常から大きな事業までやることなすことは一緒だよなと変に納得してしまいました。

都内に帰ってきてからの社長やお偉いさんの杜撰な対応はいかにもだなぁってなりました。計画性というか考えというのが浅はかで、完全にお金目当てなんだよなというのをうまいこと言葉で濁してる感じで居心地が悪かったです。

今作でほっこりしたのは高橋と黛の車内での会話シーンで、会社への不満をぶちまけたり、お互いの恋愛観を語ってみたり、田舎っていいよな〜ってなったりとまったりした時間が流れていて、この時ばかりは劇場も笑いが起こっていました。ここでもやはり車が出てくるんだなとニヤッとしていました。

高橋が薪割り気持ちいい〜とかここの管理人になろうかなっていうシーン。きっと現状の本心なんだとは思いますし、それこそ悪意なんて無いもんだとは思うんですが、どうしても実家がまぁまぁの田舎の身からすると、そんなに楽じゃないよ?と違和感が出てしまったのを巧は強烈に感じてしまったんだろうなと思いました。

町内の集まりであったセリフの「水は上から下に向かって流れる」というセリフが今作を象徴していたなと思いました。コロナ禍の給付金や補助金の行方、汚水は上の地域は良くても下に流れると生活に影響するなど、なるほどなーとゾクゾクする感覚がありました。
花を探しにいくシーンでも上流から下流へと探しにいっていたので、これぞ伏線の回収だなと思いました。

ラストシーン、これは捉え方が十人十色ってやつだと思います。誰しもが正解であって正解じゃないやつです。
個人的には自然にズカズカと入ってくる都会もんを巧が自分の手で成敗するという正義にも見えるんですが、いかにも身勝手で、でも防衛本能もはたらいてみたいなように見えて本当の悪とは思えない作りになってるのが本当に凄いなと思ってしまいました。
観ていたら急にぶん殴られた感覚で置いてけぼりにはされましたが、印象的すぎるラストの衝撃の方が強く、おもしれ〜ってゴワゴワした感情で劇場を後にしました。

個人的にですが、多分全員どこかしら悪いところ、発展したらクズな箇所があって、巧だって娘の事を何回も忘れている事は捉え方によっては悪だと思いましたし、花も何度も行くなっていうのに行くのは極端ですが学ばない悪だとも思いましたし、ここまできたらもう悪は存在しないよ!ブンナゲ!ってなってしまい、上手い作りだなぁってなりました。

棒読みの演技というか本読みの演技が濱口監督作品では特徴的なので、最初こそ違和感はありましたが、だんだんそのキャラクターの特徴や考え方が滲み出るようになっていき、そして感情が少しずつ乗っていくと人間味が出てきたのでそういう面でもこの演技は楽しめました。ただ他作品でもこの感じだったら浮いちゃうだろうなという人が何人かいたので、そういう面にも着目していきたいです。

ここまでタイトルに振り回される作品ってのは初めてでした。思っていたよりかは難しい作品ではありませんでしたが、それでもしっかり考え込んで不意を打たれてと忙しい映画でした。ちゃんと今作と向き合えるような人間になりたい。
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