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悪は存在しないのartemisのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

映画のタイトルが意味するもの
それは監督の伝えたい映画の正体

ドライブマイカーの濱口監督が3年ぶりに撮った映画のタイトル

「悪は存在しない」

物事の善悪を判断する基準は人それぞれだ

この映画の中では村に住む人々の事をないがしろにし、利己的な目的、給付金の為にグランピング施設を建てようとする社長とコンサルタントが最大の悪の存在

川下の人達に対して責任感を持って日常を過ごす川上の住民達が善の存在である

そんな川上の人々は自然を壊して住み着いた自分たちの存在は「自然に対しては悪である」と認識して生きている

鹿を殺す猟銃音だけで映画の中に存在する別の村の人達がでてくる
彼らの存在を「鹿を殺す悪」と捉える人達もいるだろう
しかし少し想像力を働かせれば、彼らは鹿に農作物を食べらえれる獣害にあっている人達だ

しかし自然界の鹿側からすれば人間は突然攻撃してくる敵

それぞれが、それぞれの立場で生きている

時に利己的で時に利他的
両方の性質をもつ人間

自然界の動物は単純明快だ
日々を生き、子孫を残す
ただそれだけ

獲物を狩り生きる為に食べるライオンを責める者がいるだろうか

手負いの鹿が子供を守るために近寄るものを見境なく攻撃するのは同じ自然の摂理だ

人間だって自然の摂理の中で生きる動物で、自然界からすれば人間だけが特別な存在ではない

自然は攻撃する

手負いの鹿を触ろうとして攻撃された子供
あの男が騒ぎださなければ、鹿は子供を攻撃したりしなかった

いや、手負いの鹿は近づくものは攻撃したんじゃないか

あの男は手負いの鹿が危険だと知り、子供を守るために叫んだ、悪意なく

目の前で子供が鹿に攻撃され死んでしまった男
自然の摂理に照らし合わせれば、仕方のない事

しかし感情を持つ人間の男は妻を亡くし、さらに子供迄亡くした男の絶望と怒りは目の前の男の殺意に変わった

突発的な殺意

最大の悪だった芸能事務所の社長の存在が吹き飛ぶ殺人と言う犯罪を犯した男

人間が社会が円滑にすすむために作った不完全な法律で裁かれる男は社会から悪の存在として攻撃されるだろう

この映画の中に存在する悪はなんだ
突発的な殺人を起こした男は悪なのか?

自然界の摂理に照らし合わせれば
そこに「悪は存在しない」のだ

前半、BGMもなく自然界に溶け込んで生きる男の姿が長々と映される
そこに「生きる日常」を感覚的に味わう事で感じられる自然と共に生きる意味

自然はちょっとした方でバランスを崩し子供を殺した

前半に悪の存在としておかれる芸能事務所の社長
彼の作るグランピング施設を使う側の人間である私達もその延長線上に存在する自然のバランスを崩す者

目の前の娯楽を享受するだけで、その背後にある自然破壊を理解どころか想像すらしない私達

娯楽の延長線上で自然破壊に手を貸している私の無意識
それは明確な悪の存在

「これは君の物語になる」
それがサブタイトルの意味するものだろう
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