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悪は存在しないのchanmoreauのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
うーむこれまた濱口監督お見事
今までともまた異なる魅力的な作品
3年ぶりの新作だけどキチンと時宜性、
コロナも踏まえた物語にユーモアも健在で
嬉しくなってしまう

冒頭、ストリングスの調べに合わせて
木立なめで天空に向けたカメラがじっくり
長回しで移動するなか英語タイトルがドン
80年代ゴダールかと思ったわ😅
で前半はゆったりと台詞も少なく進み
ロングの長回しは時に眠気すら誘う
元々音楽家からの依頼で映像は後からとの事
そんなミニマルな作品なのかと油断してると
それこそが監督の罠というか策略なのだ
中盤にグランピング場を建設したい会社員と
地元住民の対話が始まり物語が一気に展開する

これが対話というより建設計画の杜撰さが
浮き彫りになるだけの会となり
会社員の男女はすごすごと東京に帰る
ここでちょうど1時間経過
前半で八ヶ岳の生活リズムにすっかり
慣れさせられた我々観客は
東京で行われる薄っぺらいオンライン会議に
もはや怒りと笑いで応えるしかない😅

この後、濱口監督お得意の車内での会話も
いつも通り、いやいつも以上に楽しい
それは本作のタイトルが表すように
彼ら東京から来た者は決して悪人ではなく
自分達のすべき事を何とかこなしてるだけで
むしろ良い着地点を見つけようと努力もする

でもそんな安易な解決を映画は提示しない
自然や野生は人間の理屈では動かない
「悪」という概念さえ人間が勝手に
ラベルを付けているに過ぎない
畑を荒らす獣を「害獣」と呼ぶように
だからこのタイトルは単純な希望でなく
観客にとっての悪とは何かを再考させる

『偶然と想像』『寝ても覚めても』を俺は大変な
傑作だと思うけれど『ドライブマイカー』も
含めて撮影照明が少し弱いかなと思ってた
でも今作は八ヶ岳の透明な空気を捉えた
撮影照明が本当に美しい
懐中電灯を使った森のショットも絶品だ

なんて事の無い物語だけど
ここには人々が自然の中で暮らす営みと
野生の魅力が凛とし感じられ
一方で都会的な仕事的な屁理屈もまた
リアルな存在として立ち上がってくる
つまりまた軽々という感じで傑作を作る
その手腕に驚くほかないんだよなぁー
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