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悪は存在しないのefnのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
 逆トトロ。自然が主題なのにえらい殺意のある映画で驚いた。刺々しい枝木、鹿の骸骨、うずたかく盛った糞から立ち上る湯気。共犯関係にある人間の薪割も切られる側(ローアングル)からはじめるという徹底振り。
 対する工事の指揮を執る事務所側はそういった生の暴力性とは無縁で社長はオンラインカメラ越しで直接の上司は会議に顔も向けない。真剣に工事計画の見直しを訴え画面を見詰める部下と画面越しに会議を眺める社長、中央を占めながら後ろを向く上司の奇妙な構図がワンフレームで収められたショットは疎外の縮図のよう。
 怖い表現に対して対立構造の提示は知的。冒頭の枝木のローアングルトラッキングショットから薪割への移行による男と自然の共犯関係の示唆(反復有)、住民説明会と結氷した池を行く娘のクロスカットが示す自然の自律性、そして手負いの鹿を受けた人間の行動が結末を用意する。
 素直に解釈するなら市場拡大=資本主義に抗う自然の映画だが強固なショットの数々は抗うという言葉を越えて自然が戦争を仕掛けているように見せている。環境”保護”、”豊かな”自然、そういった人間側の自然像がどれほど自分勝手なのか。それを思い知らせるような映画だった。
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