1927年に始まった公道レースのミッレミリア(イタリア語で1000マイル)は、毎年イタリアで開催され、錚々たる自動車メーカーが覇権を競い合っていた。第二次世界大戦による中止期間をはさんで戦後再開されたミッレミリアはフェラーリの独壇場で、1957年に幕を下ろすまでの11年間で、フェラーリ以外が優勝したのは3回だけ。エンツォ・フェラーリは我が世の春を謳歌しているはずだった。だが、フェラーリは資金難から倒産の危機にあり、エンツォはプライベートでも難題を抱えていた。
1957年のミッレミリアでもピエロ・タルッフィが乗るフェラーリ315Sが優勝しているが、スペイン貴族アルフォンソ・デ・ポルターゴ侯爵が乗るフェラーリ335Sは、時速240キロで走行中に突如パンクして宙を舞い、沿道の観客の列に突っ込んだ。この事故でドライバーのポルターゴと同乗者は即死、子ども5人を含む9人の命が失われ、エンツォ・フェラーリはその責任を問われることになる。
映画の主人公がエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)なのは間違いないが、窮地に陥ったエンツォをギリギリのところで救った共同経営者で妻のラウラ・フェラーリ(ペネロペ・クルス)の存在を抜きにして、この物語を語ることはできない。エンツォの人間性は、現代の価値観からすると糾弾されることになりそうだが、ラウラの芯の強さと、意地と、寛容さは、いまの感覚でもゾクッとするほど。珍しく低調なアダム・ドライバーの影響で、ドラマ部分の盛り上がりがペネロペ・クルス一人の肩に乗る形になってしまったのは不幸だったかもしれない。
事故から20年後の1977年からミッレミリアはクラシックカーレース「ミッレミリア・ストーリカ」として復活。日本でも派生イベント「La Festa Mille Miglia」が毎年開かれている。この映画を撮るために600万ドルをかけて9台のレプリカ車が製作され、背景に映る400台近い車も博物館やコレクターから借り受け、音響も本物のクラシックカーのエンジン音を収録するなど、制作陣は細部にこだわったようだが、興行的には大失敗だったらしい。たしかに評価がむずかしい作品だと感じてしまった。クラシックカーに興味があれば、もっと楽しめたのかもしれないが、残念ながらずっとペーパードライバーの自分にはそれもかなわかった。ごめんなさい。
△2024/07/10 109シネマズ二子玉川で鑑賞。スコア3.5