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エンパイア・オブ・ライトのtanayukiのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.1
「母におきたことが僕にも起きた。将来僕の子にも起きる。たまに考えるよ。何のための人生か」

黒人排斥を掲げる人種差別主義者のスキンヘッドの若者たちの暴力にさらされたスティーヴンの悲しみとも怒りともあきらめともつかないつぶやきを聞いて、何世紀にもわたってユダヤ人を迫害してきた西洋社会が、ついにイスラエルという鬼っ子を生んでしまったこと、その暴走を誰も止められないことへの悲しみと怒りとあきらめが、心の奥底で行き場を失い、うごめいている。移民排斥や人種差別も、何世代も続けていれば、いつか第二のイスラエルを生んでしまうおそれがある。いや、すでにアメリカはその段階に入ってしまったのかもしれない。

男たちへの不信感から精神を病み、傷ついたヒラリーが同僚の映画技士ノーマンからすすめられて見た映画「Being There(チャンス)」のことが気になった。こんな記事を見つけた。

『チャンス』伝説のコメディアン、ピーター・セラーズが代表作に刻みつけたもの|CINEMORE(シネモア) https://cinemore.jp/jp/erudition/2861/article_2862_p1.html

問題を抱えた人たちを引き寄せる不思議な映画館「エンパイア・シネマ」には、あらゆることを包み込むような、やわらかい光がみちていた。

ちなみに、もしこの作品が、情緒不安定の黒人のくたびれたおっさんと20歳前後の白人女性、あるいは、メンタルに問題を抱え入院歴のある白人のおっさんと20代の黒人女性の物語だったら……。おそらく、まったく違った印象の作品になっただろうことを思うと、最近ネットを騒がせている問題の複雑さが浮き彫りになる。

△2024/09/08 Apple TVでレンタル鑑賞。スコア4.1
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