いち麦

人間の境界のいち麦のレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
5.0
ポーランド政府が隠蔽する非人道的な難民政策を暴く硬派な社会派ドラマ。アグニエシュカ・ホランド監督が上映をめぐり自国政府と対決することになった作品。シリア、イラク、トルコなどからベラルーシのビザを取り民間航空機で難なくベラルーシ入りを果たすも、そこから国境越えでEU圏のポーランドを目指すところで悲惨な運命が待ち構える。ベラルーシとポーランドの国境で“人間兵器”としてボールの様に際限なく双方から押し出され続ける難民たち。
ポーランドの国境警備隊や難民を支援する活動組織の行動をも生々しく再現して見せてくれるパートもあり多面的な構成。どのキャラクターも人物像がしっかり作られていたのも良かった。緊張の糸が途切れることなく最後まで引き込まれた。
国境警備隊の一人であっても悩み自分の良心から行動を変えようとしていく青年ヤンの心揺さぶる姿や、支援活動組織のメンバーたちが自分たちのやれる限界をわきまえていること、それでも敢えてその活動へと身を投じずにはいられなくなった女性精神科医ユリアの胸を熱くする姿など見応えがあった。
ベラルーシとの間での難民対応とは対照的にウクライナとの国境越えで入ってくる難民たちへ見せるポーランドの対応は穏便。何故これほどポーランド政府の対応は違うのか、単に入国してくる難民の国籍で分け隔てているだけではなく、ベラルーシに対する幼稚な論理の表れのように思われ考えさせられた。だが、日本政府だって非人道的な入管法を敷き続けている現実がある。どの国にも立て前と本音がある。

字幕翻訳は額賀深雪氏。
いち麦

いち麦