ワンコ

ぼくは君たちを憎まないことにしたのワンコのレビュー・感想・評価

4.0
【ただ、憎まないは、許すではないと思うこと】

憎まないと決めても、決してそこに葛藤は無くならないし、ずっと心が押しつぶされそうになるのに耐え続けてなくてはならない。

人間だから当たり前だが、葛藤を受け入れることだって勇気が要ることで、大きな前進でもある。

この映画を観て、多くの人には分かってもらい難いかもしれないけれど、フランスならではだなと考えた。

マリー・アントワネットを断頭台に送ったフランス革命。
革命を主導したグループの中でも対立が起こり血で血を洗うような凄惨とも言える国内の混迷。
民主主義革命の波及を恐れた周辺国がフランスに攻め入ったことでナポレオンを中心に団結し、結果的に領土まで拡大したように思えたが、その後、ナポレオンは皇帝となり、しかし、戦争に敗れ、また、フランスは混乱に陥ってしまう。

ちょっと中略して時代は進み、第一次世界大戦でドイツに天文学的な補償金を課し、その反動もあって、第二次世界大戦ではフランスはドイツに占領されることになった。
連合国にドイツは敗れ、ドゴールなどレジスタンスの団結も評価され、ここから、フランスには、かつて植民地だったアルジェリアの独立戦争なども経て、変化が訪れる。

敗戦国のドイツを、現在のEUの礎となったヨーロッパ石炭鉄鋼共同体や、ECなど関税同盟に取り込み、過度にドイツに対する憎悪を煽らずに、更に、ドイツと共に、参加国に対し健全な財政を促し、関税同盟を拡大、通貨統一にまで漕ぎ着けたのだ。

大戦後ドゴールの大統領就任をもって、フランスは第五共和政となり、EU成立や通貨統一に導いた歴代の大統領に対するリスペクトや評価は内外で今もって高い。

こうして、報復や復讐とは異なる方法を模索しない限り平和の達成は困難だと云う考え方は、フランス人の中に根差した思考形態の一つのように思う。

だが、それでもテロは起きるし、負の連鎖につながる復讐心はなくなりはしない。

現在のイスラエルとパレスチナの悪化する情勢を見るにつけ、暗い気持ちになる。

だから「法の支配」が重要なのだが、空虚で念仏のようだと皮肉を言う人もいる。

しかし、”憎まずとも、許されない”と考える背景には法の支配があるはずだからだ。

テロも報復も暴力の連鎖にしかならない。

国外にいるハマス幹部が日本のメディアの「ガザ住民が人の盾になっていることをどう考えるか?」という質問に気色ばんで「彼らは皆聖戦士として亡くなったのだ」と答えていた。
大戦時の日本の特攻隊にも似たような思想の押し付けがあったのだと思うが、人の命を思想や主義主張が弄(もてあそ)んで良いはずがない。

どうか、憎しみの連鎖を断ち切るにはどうしたら良いのか、些細なことでも考えて欲しい。
ワンコ

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