このレビューはネタバレを含みます
不幸な展開の釣瓶打ちに「やり過ぎじゃないか」と白けなかったと言えば嘘になるが、真剣に作られた映画だと思いました。
虐待、DV、自殺と続くため気持ちは沈む。それらの描写が直接的になることが多い成島監督作だから余計に。ひとつだけでも辛いのに…特に宮沢氷魚が出てきてからは皆が不幸になる有様に作為性を感じてしまったこともあり、やり過ぎだなと。
トランスジェンダーの人が自死を選んでしまうのも、紛れもなく実際にある悲劇だとは思うのだが、創作でそれをやってしまうことの意味は少し考えた。否定したい訳ではないのだが、ただ考えはする。覚悟を持って作っていることは、クレジットに監修者の名前が幾つも並んでいることから察するのだが。
悲劇に尺を割き過ぎて、救われ方がちょっとおざなりなのも気になる。いや勿論救われて良いんだけど、「52ヘルツの鳴き声は他のクジラに届かない」って話なのにすんなり届いちゃうので。村に受け入れられるまでを丁寧に描けていたらまた違うのだが、いかんせんそれをやる時間は残されていなかったんだろうな…。
事程左様に話の作りが気になったのだが、作られた話に対しての演出は真摯で良かったと思う。「八日目の蝉」や「ソロモンの偽証」を手掛けた成島出は本作の監督として最適解。登場人物へのズームを多用し過ぎだけど。あと、いつも思うのだがVFX得意なスタッフを紹介してもらった方が良い。
俳優陣では志尊淳がとても繊細で難しい役と必死に向き合っていて好印象。杉咲花はパートごとに全然違う女性に見えるカメレオンぶり。彼女の母親役の真飛聖は、ちょっと御本人のことが苦手になりそうなくらい毒親を演じ切っている。「私も叩きなくないの」と泣きながら「でもあなたが悪いから」と娘を叩くの最悪すぎる。徹頭徹尾息子を愛していない西野七瀬よりも性質が悪い。方や、子供のことを素直に愛していたのに悲劇に見舞われる役の余貴美子。流石だった。
