ひこくろ

リテイクのひこくろのレビュー・感想・評価

リテイク(2023年製作の映画)
4.3
ものすごく自主制作映画っぽいことと、ものすごく一般映画っぽいことを、両立させている、とても面白い映画だった。

基本の話は高校生たちが夏休みに映画を撮ろうとするもので、ここに関してはオーソドックスな題材が、これまたオーソドックスに描かれる。
奇を衒うことは一切せずに、ストレートに描いているのが本当に心地いい。
作り手ものとしても、青春映画としても、質が高いと思った。

高校生の作り手ものの場合、いかに撮影が楽しいかが重要なポイントとなるが、その点もばっちりだ。
撮影シーンは本当に楽しそうな雰囲気に満ちていて、観ていて自然とワクワクできる。
また、ひとりだけ馴染めないアリサの存在が、ドラマ性も生んでいる。
この楽しい映画作りは、ちゃんと完結を迎えられるのだろうか、という興味もそそられて面白い。

というところまでは、自主制作映画らしからぬ、じつに堂々とした一般映画ぶりなのだが、この映画はそこにいかにも自主制作映画らしいところをぶち込んでくる。
カットの声がかかり、現実世界がリテイクされていくのだ。
ここにきて、なぜ現実のシーンと、撮影されたシーンが地続きで描かれていたのかがわかってくる。
と同時に、どこまでが映画のなかの世界なのかが混沌としてくるのが、また面白い。

「望むべき映画(もしくは未来)」になるまで、リテイクは何度も繰り返される。
後半のリテイクの嵐は、まるで狂気のようでもあり、静かなシーンにも関わらず、思いきりドキドキとさせられた。

一般映画っぽい部分でも、自主制作映画っぽい部分でも、おそらくそれだけで勝負できたと思う。
なのに、あえてそのどちらもを取り入れ、見事に一本の映画に仕立て上げてみせたことに感心した。
どちらの部分も完成度は非常に高く、かつどちらの要素も邪魔になっていないのは、見事なバランス感覚だ。

正直に、観ていてずっとワクワクしていたし、劇場で観たいとも強く思った。
それぐらい、きっちりと完成されてるのに挑戦的な、いい映画だった。
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