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パスト ライブス/再会のひこくろのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.3
これは恋愛に関する距離感の話だなあ、という印象を強く持った。

ネットが普及して以来、あらゆる距離感はぐっと縮まった感がある。
いつでも誰とでも連絡を取り合うことは簡単にできる。
しかし、現実の距離感はネットのようには縮まらない。
ネットを通じて再会するヘソンとナヨンの関係もやはり遠いままだ。

それぞれの場所でのそれぞれの生活に二人は押し流される。
どんなに会いたいと願っても、ヘソンはNYを訪れようとはしないし、ナヨンもまた韓国に戻ろうとはしない。
その距離は、ネットとは違い、物理的にも精神的にも明らかに遠いのだ。
そして、二人は再び別れてしまう。
これがつらい。
子供の頃の別れはどうにもできなかったことであったのに対して、今度の別れは自分で選択したものだからだ。
その別れを経て、12年後、二人はもう一度、今度は現実に再会を果たす。

ここでも距離感がはっきりと見て取れる。
それは男女の距離感でもあり、祖国で生き続ける者と祖国を去った者の距離感でもある。
もっと言えば、思い出に生き続けているヘソンと、現実で生きることを決めたナヨンの、決定的な距離感だ。

こういったさまざまな距離感を織り交ぜながら、会話劇だけで、大人のラブストーリーに仕上げてしまった脚本が素晴らしい。
特に、ナヨンの現在の夫アーサーを出すことで、二人の物語としてまとめ上げなかったのは見事すぎた。
ラストへとも繋がっていく、アーサーを交えた二人の会話シーンは、せつなさ、残酷さ、美しさ、愛しさ、など全部が詰め込まれた名シーンだった。

こういう恋愛の距離感に注目した作品では、新海誠の「秒速5センチメートル」を思い出す。
この映画は、あれをもっと突き詰めて、とことんまで大人の現実の物語にした、という感じだ。
あの映画が好きな人なら、きっと胸に迫るものがあるだろう。

「大人のラブストーリー」という冠が相応しい。
素晴らしい恋愛映画だった。
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