ひこくろ

貴公子のひこくろのレビュー・感想・評価

貴公子(2023年製作の映画)
3.5
貴公子のキャラクターがとにかくいい。
飄々としてすっとぼけていて、でも、プロ意識が異常に高い謎の人物。
常に紳士的な態度でいるかと思いきや、愚痴ばかりこぼしたり、ちょっとした怪我でオーバーに痛がったりもする。
とらえどころがないのに、愛嬌がやたらあり、それがよくわからない正体とあいまって、とてもいい味になっている。
キム・ソンホの胡散臭さがそのキャラを余計に輝かせていた。

一方の主人公のマルコは、巻き込まれ系の悲劇の青年。
カン・テジュのどこかさみし気な瞳がマルコをよりリアルに見せる。

この二人をめぐって物語は動いていくのだが、序盤がいまいちよくない。
理由は明らかで、貴公子の存在が謎過ぎるからだ。
映画はとにかく謎を散りばめ、ミステリー的に見せようとあれこれ工夫をしてくる。
それ自体は面白いのだが、序盤の謎の展開の仕方は、貴公子というキャラを立たせるには余計だった。

中盤以降にもあっと驚くような展開が待っているのだし、前半の謎は明かされる衝撃度もあまり高くないのだから、むしろ、最初からすべてを明かしてしまったうえで、貴公子の立ち位置だけがわからない、としたほうがよかったと思う。
誰も彼もがマルコの命を狙ってくるなかで、敵か味方かわからない貴公子とどう接するか、としたら、貴公子のキャラはもっと早くから立っただろうし、物語にも面白みが生まれたと思う。

ただ、そういう高望みをしてしまうのは、この監督が「新しき世界」「V.I.P. 修羅の獣たち」「The Withs 魔女」と、次々ととんでもない傑作エンターテインメント作品を撮っているからで、じつは、この映画がそんなに悪いというわけでもない。
あくまでも、これまでの作品と見比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまう、というだけなのだ。
この監督ならもっと面白くできたはず。
そんなことをつい思ってしまう、ある意味で、とても気の毒な作品だったと思う。
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