Jun潤

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のJun潤のレビュー・感想・評価

4.0
2024.03.24

『ソラニン』浅野いにお原作。
主演はYOASOBI幾田りらと声優初挑戦のあのちゃん。
『ソラニン』『うみべの女の子』『零落』と実写化した作品はこれまでにあるものの、同原作者の作品としては初のアニメ化、さらに劇場二部作。
プロモーションに気合が入ってるのかどうかが分かりにくい力加減でしたが、意外と上映規模が大きめ。
主演2人のインパクトを持っていかれがちですが、種崎敦美和氣あずみ白石涼子、入野自由内山昂輝、諏訪部順一津田健次郎杉田智和と脇に控える声優陣も豪華。
先日逝去された『ちびまる子ちゃん』まる子役のTARAKOさんもご出演。

東京の近海に、突然巨大な未確認飛翔体が出現。
物体から飛び立った円盤は都内上空に滞在、米軍が発射したA型爆弾による被害と放出されたA線の汚染により、東京は一転して危険地帯へと変貌した。
それから3年後、下蛸井戸高校に通い、卒業を間近に控えた小山門出、中川凰蘭らはそんな復興していない社会の中で高校生活を謳歌していた。
門出は担任の渡良瀬に惚れていて、同じグループの出元と平間はクラスメイトで変わった性格の小比類巻に恋する栗原を遠くから見守り、そんな彼女らをネットスラングで揶揄うおんたん(凰蘭)。
侵略者の正体も目的もわからず、対処する政府や、政府に先立って兵器開発を進めるSES社、社会の混乱に抗議を起こす市民たちと、自分たちの将来も、日本の未来も何も見えない中で彼女たちは日常を楽しんでいた。
高校を卒業し、大学で離れ離れになったとしても、彼女たちは大丈夫だと思っていた、大型船から出てきた中型船を撃墜した際、栗原が巻き込まれて死んでしまっても。
ある日おんたんは、正体不明の少年と邂逅し、現在とは性格が真逆だった頃の門出とおんたんとのこと、塾の合宿で出会った侵略者との交流、門出が犯した罪についてフラッシュバックする。
果たして彼女たちの過去に何が起きたのか、新たな中型船を撃墜した際に大量に落ちてきた侵略者たちの正体と運命は、人類滅亡まで、残り半年ー。

というのが今作のほぼすべて。
観終わってから内容を思い返してみても、分かったことの方が少ないし、謎は増えていく一方、真相に対する考察も、今後物語がどう膨らんでどう収束していくのかも全く予想のつかない作品。
まぁ二部作のうちの前章としては、内容は導入部分にとどめていたし、後章を観ないわけにはいかないだろうという気持ちにさせてくれるあたり、とりあえず安心して公開を待ちましょうかねって感じです。

ストーリーの中身については、SFやディストピア感を土台にしているとはいえ、女子高生たちによる日常系がメインといった感じ。
社会がどうなっていようが、自分の将来を不安がる気持ちは変わらないし、恋に恋する年頃で、それを揶揄ったり慰めたりする微笑ましい女子高生たちの会話劇が主軸の一つ。
しかし油断していると土台となっている上述の要素から思わぬ展開へと舵を切られます。
それらがあっても日常に戻ろうとする葛藤や、ストーリーの今後も、門出たちの将来もどうなるのか全然わからないけど、もしも彼女たちの人生がこれからも続いてくれるのだとしたら、きっと少しのことじゃ揺るがないであろう友情の輝きが感じられました。

時折挟まれる侵略者の脅威に対処しようとする社会の描写は、現実の日本をよく反映していた内容だったと思います。
侵略者の正体や目的に関わらず侵略者たちを蹂躙する場面に、作中に登場した「イソベやん」のパロディ元であろうドラえもんのようなブラックSFの感じもありつつ、原作が連載される3年前の東日本大震災や、作品が完結した頃のコロナ禍などでも起きていた社会の混乱とそれに対する対応や市民の動きととてもリンクしていたように感じました。

アニメーション作品としては、他の浅野いにお作品のように実写化しようとすると『ゴジラ -1.0』以上のVFXが必要になりそうなSF部分をアニメにすることで映像化を可能にし、マスコット的な可愛さをもつものから、リアル指向で現実感のあるキャラクター、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を思い出すような造形が精巧かつヌルヌルと動くCG作画など、とても観応えがある作品でした。

後章では物語がさらにスケールアップするのか、それとも門出たちの日常が舞台を変えてまた輝きを放つのか、気になって後章の公開までに原作を読んでしまいそうになりますが、なんとか我慢して楽しみに公開を待つことにしようと思います。
Jun潤

Jun潤