たく

ビニールハウスのたくのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
3.8
暮らし向きの良くない女性の日常が、意図せぬトラブルから全て悪い方向へ向かっていく展開で、恐ろしくもどこか笑っちゃう居心地の悪い余韻が貴重な映画体験だった。ビニールハウス暮らしなんてあまりにも酷いんじゃないかと思ったけど、韓国ではこんなこと実際にあるのかな?(調べるとこれは実際に存在しており、国内で問題化してるらしい)。ビニールハウスが出てくる韓国映画といえは「バーニング」があって、本作でもやっぱり燃やす展開になってた。キム・ソヒョンの何とも幸薄い感じの役柄がぴったりハマってた。

見た目からしていかにも薄幸な刑務所暮らしのムンジョンが、刑期を終えてからの息子との二人暮らしに思いを馳せるシーンから、彼女がなぜ刑務所に入ることになったかという過去が描かれていく。ムンジョンが甲斐甲斐しく世話をしてる老夫婦が一体誰なのか全く説明がないんだけど、おそらくムンジョンが生活のために介護士として働いてて、痴呆を発症してる妻から暴言を吐かれつつもじっと耐えてる姿に、この生活を受け入れざるを得ない彼女の境遇が窺い知れる。

視力がほとんどない老夫婦の夫がいかにも人の良い好々爺で、彼の人柄にムンジョンが救われてるのが仇となって後の救いようのない展開を招くのが切ない。予期せぬトラブルから起こる最初の悲劇はムンジョンの意図したことではないはずだけど、ここはちょっと「ロストケア」を思わせて、無意識下の願望もあったんじゃないかと思った。

ムンジョンが事態を誤魔化すためにある人物を利用するのが完全にイカれてて、日本版ポスターにある「半地下はまだマシ」というのはビニールハウス生活を指してると思うけど、老夫婦の住居を乗っ取ろうするところに半地下を題材にした「パラサイト」にもかけてる感じがした。全体的に説明を極力排した演出が、事の無慈悲さをさりげなく表現してて秀逸だった。
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