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ロイヤルホテルのumisodachiのレビュー・感想・評価

ロイヤルホテル(2023年製作の映画)
4.1



『アシスタント』の監督と主演が再びタッグを組んだスリラー。

親友同士のハンナとリブはオーストラリアでワーホリ中。お金が無くなってしまった彼女たちは、片田舎のバーで住み込みで働く

私が新入社員として配属された部署は私以外は男ばかりで、過去に1人の例外を除いて全員が早めにリタイア(異動)していると噂されていたような場所だった。そういうところって、毎日毎日息を吸うようにセクハラが起こるんだよね本当に。


触るとか卑猥な言葉を投げかけるといった、誰もがセクハラだと認めざるを得ないようなものもあるのだが、そうではないものだって無数にある。お前よりもあっちの方が可愛い、あっちがこの部署に配属されれば良かったのに。そんな服着て何のアピールだ?女は楽でいいよな。(飲みの席で)膝に手を置いたりして仕事とってこいよ女なんだから。(キスするふりをして)「うげー(こんなブスとキスの真似させられちゃったよ)」……思い出せば次から次へと出てくるこんな言葉の数々。取引先に無理やりキスされそうになったとか、「今日ホテルとったんだけど今夜こない?」とか、そういうのだってある。クソでしょ?

本作でハンナたちは多種多様なセクハラとパワハラに遭う。明らかに暴力的なものから、ソフトで一見すると友好的なものまで。アルコールが入ると歯止めが効かなくなるのでセクハラの度合いは上がるのだが(現実世界もそう)、ハンナは断固としてセクハラやパワハラに嫌悪感を抱き続けて拒否する。私もそうだったなあとハンナを見ながら思い出していた。とはいえ、正社員だったから立場が守られていたので、私は拒否できただけ。ハッキリいって自分も酒を飲んで前後不覚になって受け入れてしまった方が楽なんじゃないかと思ったこともあった。だって、飲みの席で盛り上がっているのに「私は拒否します!」っていう態度を取ったらその場を白けさせるし、場合によっては怒られることだってあったから。なので、状況に身を任せることで痛みを感じないようにしようとしたリブの態度も理解できる。自分も納得していたと思い込んだ方が楽な気がするんだよね。それで傷がなかったことにはならないのに。

本作についての感想で「ハンナたちの態度もどうかと思った」など、彼女たちの被害性に疑問を抱くものをいくつか見かけた。え?正気ですか??

その場にいるだけで自分よりも圧倒的に戦闘力が高い相手からの性的な視線や見下しを常に感じ、下手に機嫌を損ねたら暴力を受ける危険があるんだよ?相手の機嫌次第で自分がどんな目に遭わされるかわからない、という状況はヤクザ映画で監禁されているようなものなわけで。そういう状況でハンナのように必死で抵抗するのはかなり難しいことだというのは容易にわかりそうなものだけれど。

いつ終わるかわからない恐怖に人間は耐えられない。何を言われても笑顔で上機嫌に振舞って「自分が主導権を握っている」と思い込もうとするリブの気持ち、わからないですかね?終盤のどんちゃん騒ぎに身を任せてしまった方が楽になるとい思ってしまうの、理解できないですかね?『HOW TO HAVE SEX』で描かれていたものを性的同意だと認識してしまう人がいるように、本作で描かれているセクハラの恐怖や醜悪さについてピンとこない人がいるということが何よりも怖い。

スリラーと謳われてはいるが、あくまでもリアルなラインは最後の数分まで超えない。つまり、本作に出てくるセクハラやパワハラは現実的なものしかない。地に足の着いたフェミニズム映画だが、だからこそラストの飛躍が気持ちよかった。
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