ベルベー

アメリカン・フィクションのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

面白かった!元々切実な運動だったはずのBLMも、ムーヴメントになってしまえば、それが現実か虚構かなんて気にしない、違いも分からない愚かなマジョリティの消費財と化してしまう。意識高いようで低すぎるアメリカを滑稽に描いてみせた。

斜に構えたインテリ黒人作家が「どうせ世の中のバカは貧困、犯罪、差別、弾圧…それがオレ達の"リアル"みたいな話が好きなんだろ笑」と覆面作家としてそれっぽい小説を書いたら大ヒット。「これが黒人の"リアル"😭」と全米が涙!映画化決定!賞レース最有力候補!と、マジでウケてしまったことにショックを隠せない作家で…。

こいう性格悪いコメディ、大好きです。パッと思い出したのはメル・ブルックスの「プロデューサーズ」。興行的に失敗する為に、倫理的にアウトネタ全部乗せの最悪な演劇を作ったはずが、前衛芸術として大ヒットしてしまうというコメディ。そして本作「アメリカン・フィクション」は「黒人差別が描かれていたらのべつまくなしに絶賛するお前らも似たようなもんだぜ!」と、チクリどころかブスリと刺す。

良く出来ているのは、件の黒人作家は貧困や犯罪などのステレオタイプな黒人像とは真逆のインテリな生い立ちだが、楽な人生を送っているわけでは決してなく、むしろ現在進行形で苦労しているということである。父親は自殺、母はアルツハイマーを患い彼女を看病していた姉も亡くなり、ゲイの兄とは上手くいっていない。作家として評価はされどヒットはなく、金銭面の不安が付き纏う。一般的に言う「成功」は手にしたかもしれないが、楽な人生では決してない。

しかし世間が求める「黒人の悲劇」に合致しない彼の苦労に、世の中は見向きもしない。中々腹立たしい話だが、しかし「アメリカン・フィクション」は、そんな「悲劇の黒人」に酔いしれる世の中を、思い切りバカにして皮肉ることで抵抗する。目先の売上の為なら放送禁止用語でもOKな出版社!頭空っぽな映画業界!

バカに仕方がヒドすぎて痛快だった笑。特に映画業界の自虐が凄い。「ハリウッドの奴等は本なんて読まねえぞ」「あいつらアシスタントに要約させてるから」……やめるんだ!デヴィ◯ド・ハ◯マ◯がハ◯ポタを発掘したかのように語ってるけど最初に見つけたのはアシスタントだったとか、そういうエピソード思い出しちゃうから!「この悲劇の主人公にはマイケル・B・ジョーダンがピッタリだよね〜」とか「フルートベール駅で」への流れ弾が凄い!実名はやめるんだ!タイラー・ペリーが何をしたって言うんだ!ちょっとラジー賞ノミネートが多いだけでしょうが!

なんてやりたい放題しつつ、主人公自身のドラマ部分は意外なほどウェルメイドなのが印象的。悲しいことも上手くいかないこともあるけれど、それだけが人生じゃない。温かな繋がりもある。やり直すことだってできる。それはそれとして全方位バカにするけど。

ただ、そんな風に世間をバカにしている主人公自身も、彼が軽んじている黒人女性作家からしっかり批判されていて。つまり誰かをバカにする自分はどうだ?という視点がちゃんとあったのも良かったです。朝井リョウの「何者」とかそういう話だよね。

しかしジェフリー・ライト、最高でした!シリアスなイメージが強い彼が思いっ切りコメディを演じているのが。痛快。
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