鈴木ピク

アメリカン・フィクションの鈴木ピクのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.8
すげえぬるま湯の映画ではある 『アトランタ』のどこか一話だけ適当に抜き出してみても、白人への皮肉に不条理な要素を被せて謎の緊迫感による緩急で見せ、ヒロ・ムライ監督による画面が本作よりよほどタイトにダウナーに魅了する

比べると本作は皮肉としてもヘラヘラ見れる範囲というか、「これくらいで白人は身につまされない」と思うのだが、一方でどうしようもなく居心地良かった

それはスキャンダラスな本筋が実は映画の流れに於いては話を引っ張ることなく、あくまで「ちょっと孤独でちょっとスネた、格別幸せでも不幸でもない独身中高年の黒人」のふわっとした気分をゆるやかに見せているからだろう(完成度はさして高くないのに各賞にノミネートされたのは、本作の皮肉をより高める結果になったというよりはここら辺の悲哀が映画オタクのまま中高年になった審査員たちに刺さった気がする)。

ジェフリー・ライトの芝居も終始ボルテージを高めず、緩い。良い意味で張り切り過ぎてない。『バスキア』のバスキアが死なずにそのまま歳を取ったような、そんな感傷も覚えた。
鈴木ピク

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