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華岡青洲の妻のakrutmのレビュー・感想・評価

華岡青洲の妻(1967年製作の映画)
3.3
江戸時代に実在した外科医・華岡青洲が世界初となる全身麻酔による乳がん摘出手術を成功させるまでを、全身麻酔を検証するための被験者を引き受けようとする彼の母親と妻とともに描いた、増村保造監督によるドラマ映画。

有吉佐和子の同名小説を映像化した作品であるが、小説にはない何かがあるかと言われれば、答えに窮してしまう。原作でも本作でも、医学関係者の間でしか知られていなかった華岡青洲という人物の功績と彼の母親と妻の嫁姑問題という2つのテーマが描かれるが、社会問題などの難しいテーマを取り上げながらも読者を飽きさせないエンタメ小説として仕上げる能力に長けている有吉佐和子の小説に比べて、本映画はどちらのテーマも盛り上がりに欠け、小説を表面的になぞっているだけにしか見えない。嫁姑問題にしても、なぜ互いに張り合うようになるかがよくわからないし、その描写も中途半端なまま。正直に言って、増村保造監督にしては凡作である。小説を読んだほうがずっと面白いだろう。

若尾文子と高峰秀子という二大女優を起用しているという点でも、この出来ではかなりもったいない。また、年齢的な意味で現実には仕方ないのだが、個人的には二人の役を交換した(もっと歳を取った若尾文子が母親を、もっと若い頃の高峰秀子が妻を演じた)ほうが適切なような気がする。

ちなみに、有吉佐和子の小説『恍惚の人』の映画版にも出演している高峰秀子と有吉佐和子はプライベートで仲良しの間柄であることが、高峰秀子の自伝的エッセイ『わたしの渡世日記』で逸話とともに語られている。
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