ジャン・ヴィゴの早すぎる遺作であり、フランス映画史上の最高傑作のひとつ。
川を流れゆく男女の愛、というと、アポリネールの「ミラボー橋」かと思うが、そんな事は断じてない。
なぜなら、彼らのすぐ傍らにはミシェル・シモンがいるからだ。この映画の見どころの半分は、彼のエキセントリックな魅力が占めている。レコードを指でなぞって音を出しているかのような場面や、一人で暴れたり、花を落としたりと、物語の本筋とはおよそ関係の無い、ミシェル・シモンが出てくるシュルレアリスティックな場面の数々が、この映画を怪物的にしているのだ。
また、ボリス・カウフマンによるフレーミングは総てにおいて完全であり、その凄さは「新学期/操行ゼロ」をも遥かに超えている。アヴァンギャルドなまでに緻密なモンタージュも、見事としかいいようがない。